2022年03月11日 1714号

【ロシアの軍事侵攻を糾弾する/ウクライナから即時撤退せよ/国際紛争は武力で解決できない】

 レッドライン(越えてはならない一線)を越えたのはロシアだった。ロシア軍が2月24日、ウクライナの軍事施設83か所を広範囲に爆撃し、首都キエフに迫った。明らかな侵略行為であり、断固糾弾する。国際紛争は武力では解決できない。この機に乗じて軍事緊張をあおる産軍複合体・好戦勢力を国際的な連帯で抑え込む必要がある。即時停戦、撤兵せよ。和平交渉のテーブルに着くことが唯一の解決策であることを訴えよう。

米露軍事対立

 戦闘に至った経緯をみよう。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月21日、ウクライナ東部のドネツク人民共和国及びルガンスク人民共和国(2014年独立宣言)を独立国家として承認。両人民共和国は24日、ロシアとの友好協力相互支援協定により支援要請し、ロシア軍が攻撃を開始した。

 一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日、「ここは我々の領土だ」と宣言し、友好国に「明確な支援」を求めた。米政府は武器弾薬などを供与しNATO(北大西洋条約機構)軍の一部はウクライナ国境へと移動していた。いわばウクライナの「内戦」が、米露が正面から対峙する構図となった。

 世界が糾弾する軍事行動をプーチンはどう正当化しているのか。一つには、親ロシア系住民がウクライナ政府から冷遇され、CIA(米中央情報局)が資金援助したネオナチ団体などから虐殺されていることをあげた。プーチンは「住民保護」のためだと言った。

 もう一つは、NATO不拡大の法的保証を求めた文書(2/17)を米政府がまったく相手にしなかったことだ。これが交渉解決を諦める直接的な原因となった。米政府が保証しないのならウクライナ政府を中立の立場に立たせるというわけだ。

 プーチンにはNATOに強い不信感があった。ソ連崩壊直前の1990年、東西ドイツを統一する際、当時の米国務長官ベーカーはソ連を説得するために「NATOは1インチたりとも東に拡大しない」と言った。91年ソ連側の軍事同盟ワルシャワ条約機構は解体。97年ロシアとNATOは「加盟の権利は認めるが拡大に配慮する」旨の協定を結んだ。だがNATOは一気に拡大。今回ウクライナへの軍事支援、近隣への派兵という軍事挑発まで行っている。プーチンは「だまされた」と語る。

 だが、これらの理由をいかに強調しようとも軍事行動の正当化はできない。

経済覇権争い

 ロシア侵攻の背景には経済問題がある。現在ウクライナは、EUへの加盟承認は得られていないが、「深化した包括的自由貿易圏(DCFTA)」に調印(14年)、関税撤廃などEUと連携を深めている。

 一方で旧ソ連諸国によるCIS(独立国家共同体)自由貿易条約の加盟国でもあった。ロシアはウクライナ経由でEUの商品が無関税で流入するのをおそれ、ウクライナ産品に関税を課す例外措置をとり(16年)、ウクライナと「貿易戦争状態」にあった(朝日新聞「GLOB+」21年3月)。

 ウクライナ東部は経済的にも重要な地域だ。ドネツ炭田やクリヴィー・リグ鉱山(鉄鉱石)をもとにした重工業、軍需産業や航空・宇宙分野の産業が集積。ウクライナ自体、ロシアから欧州への天然ガス・石油パイプランの経由地でもある。

 ロシアはEUに対抗できる経済圏としてユーラシア経済連合を創設(15年)したが、親米政権化したウクライナは不参加、思惑通りに広がらなかった。そこで中国の一帯一路構想との連携をはかるなど、経済的結びつきを強めている。ウクライナの貿易相手国1位は中国になっている。経済圏の拡大を目指す中露にとって重要な国なのだ。

混乱招く経済制裁

 経済制裁でロシアは引くのか。

 プーチンは親米諸国からの経済制裁を想定し、中国の協力を取り付けていた。天然ガスの追加供給の他、国際決済システムSWIFT(国際銀行間通信協会)からの締め出しに備えた。中国が構築した国際決済システム(CIPS)の活用を協議している。対露経済制裁は中露の結束を強めるということだ。さらに石油や小麦などが投機対象となり、世界経済にも影響をおよぼす。ダメージをうけるのはロシアだけではない。

 軍事力だろうが、経済力だろうが、威嚇や脅迫によって言うことを聞かせようとする方法がうまくいくことはない。国際紛争の外交交渉での解決は、相手の立場を踏まえ、互恵となる解決策を作り上げる以外にないのだ。

軍事緊張あおる日本

 岸田文雄首相はロシア侵攻を「力による現状変更」「国際秩序の破壊」だと非難している。ロシア非難は当然としても、かつて日本政府は、米軍が「力による変更」に出たイラク侵略戦争を真っ先に承認し、参戦した。岸田がいう「国際秩序」は彼らが必ず守る原則ではなく、都合によりどうとでも変わるものだ。

 岸田は「日本の安全保障の観点からも看過できない」と語った。元自衛官の佐藤正久自民党外交部会長は「今日のウクライナを、明日の台湾にしては絶対いけない」(2/22)と「台湾有事」に結びつけ、軍事力増強への宣伝材料にしている。

 ウクライナが米露代理戦争なら台湾は米中代理戦争の象徴だ。ここに「尖閣」・「北方領土」を持ち出し、日米対中露の「冷戦」構図を描きたい日本の好戦勢力の挑発を許してはならない。軍事緊張をあおるだけの言説を批判しなければならない。

 特に岸田政権は「敵基地攻撃能力」をめぐって、踏み込んだ発言を続けている。岸信夫防衛大臣は「他国領空に入り攻撃も可」とする答弁をした(2/16衆院予算委)。つまり自衛目的なら、ロシアがキエフの軍事施設に爆撃機を向かわせてもよいということになる。ロシア軍は極超高速ミサイルを使ったと言われる。対抗するにはそれ以上に速いミサイル開発が必要だ。際限のない軍拡競争が核兵器を生み、広島長崎の悲劇を生んだことを忘れてはならない。

 「あらゆる可能性を検討する」岸田政権は核保有の可能性は否定するものの、憲法上、保有は許されるとの立場をとっている。「専守防衛」の建前さえ投げ捨てた日本の好戦勢力は「敵基地攻撃能力」保持を当面の目標にしているのだ。



   * * *

 世界各地でロシアの軍事侵攻に抗議する行動が取り組まれ、外交による解決を求める声が上がっている。ロシアでも、厳しい弾圧の中で数十の都市で戦争反対の集会が行われている。

 日本政府は新たな「冷戦」に加担するのではなく、平和的解決に力を尽くすべきだ。「国際紛争を武力で解決しない」と宣言する憲法を持つ国の政府として、即時停戦、解決に向けた外交努力を米露に求めるべきだ。

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