2022年03月11日 1714号

【大統領選迎えるフィリピン 民衆はマルコス独裁″ト来にノー】

 フィリピンでは、2月8日から大統領選挙(5月8日)に向けた選挙運動が公式に始まった。選挙をめぐる動きの中で、民衆はいま何を求めているのか。

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 ドゥテルテ現政権は、2016年発足とともに「麻薬戦争」と称して、容疑者や活動家など多数の市民を法的手段も取らず殺傷してきた。人権団体Karapatan(カラパタン)によれば、政権発足以来殺害された活動家は421人、殺人未遂504人、逮捕拘束は1138人に上る。選挙戦前も人権侵害が多発し、カラパタンは国連人権委員会に調査を求めている。

 新型コロナのパンデミックは、政権にとって民主勢力を抑圧する格好の材料となった。2月14日時点の感染者は約364万人、死者は5万5千人以上(ロイター)とされる。政府は、マニラ首都圏をはじめ主要な都市でコミュニティー隔離を連発し、仕事に行けない貧困層の生活はひっ迫している。生活保障は、昨年・一昨年に各1回、わずかな配給品と5千ペソ〜8千ペソ(約1万1千円〜1万8千円)の「休業補償」のみ。感染の恐怖をあおりながら、具体的なコロナ対策はほとんど行わず、集会や行動を抑え込んできた。

弾圧政権の継承にノー

 フィリピンでは大統領任期は1期6年のみ。ドゥテルテの出馬はないが、ドゥテルテの娘サラを副大統領候補として、1986年の民衆蜂起=ピープルズパワーで大統領の座を追われた独裁者マルコスの息子、フェルディナンド・マルコス・ジュニアが大統領選に出馬している。

 これに対し、現副大統領のレニー・ロブレドや、マニラ市長、全国最低賃金日給750ペソ(約1700円)実現を掲げるBMP(フィリピン労働者連帯)グズマン議長など15人が出馬。多くの民主勢力は、マルコス・ジュニア登場を独裁者マルコスの再来、ドゥテルテの権力維持ととらえ、警戒を強めている。市民団体や教会、BAYAN(バヤン)(新民族主義者同盟)、KMU(5月1日運動)など民主勢力が「結束してマルコスの再来を防ごう」と推しているのは、ロブレド候補だ。ロブレドは、「麻薬戦争」反対、汚職追放、雇用回復を掲げ、5千億ペソ(約1兆円)のパンデミック対応政策で病気・飢餓・教育欠如からの自由を訴える。

 アバカダ(マニラ首都圏の就学前教育施設)を運営する音楽家ポール・ガランも「マルコスとサラが勝てば、人権侵害、汚職、貧困、活動家や報道記者に対する殺戮(さつりく)、報道の自由の侵害が続くことになる」と語る。

 12月の選挙調査ではマルコス・ジュニアが53%の支持率で独走状態、ロブレドは20%だ(共同通信)。

 マルコスチームの支持率が高いのは、「マルコスのおかげでインフラも整備されフィリピンの黄金時代を築いた」というフェイクニュースと豊富な資金、政権に批判的なメディアの弾圧による。ドゥテルテも「インフラ整備を進めた英雄」と宣伝し、マルコス独裁下の戒厳令などを知らない若者世代らの支持を得ている。

 一方、「麻薬戦争で7千人以上を超法規的に殺害」と事実を伝え何度も拘留・逮捕されたニュースウェブサイト「ラップラー」のマリア・レッサCEOがノーベル平和賞を受賞。ILO(国際労働機関)が、労働組合員への暴力と脅迫についての申し立てに「深い懸念」を表明したことなども追い風となり、民主勢力の反撃が始まっている。

3月30日 平和のつどい

 ポール・ガランもコロナ禍で外出や集会が制限される中、音楽と語り、映像で真実を伝えようと毎週日曜日にフェイスブックでライブストリーム(オンラインでの生中継)を開始した。

 3月30日には、日本で連帯に取り組む「AKAY(アカイ)プロジェクトをともに創る会」とオンラインで「平和のつどい〜子どもたちとともに」を開催する。親子で軍国主義に反対し、正義と平和、命を大切にする世界を創ろうと呼びかける。

 コロナ禍の下でアバカダが始めた地域の給食活動の責任者、シェフのアミーは「アバカダのプログラムの中で、私たちは女性として重要な役割を担っています」と語っている。アバカダは、フェイクニュースに抗する力を地域の活動を通して育んでいる。

◆平和のつどいなど、問い合わせは kobukefam@jcom.zaq.ne.jp(古武家)まで

(AKAY・中條千尋)





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