2022年03月11日 1714号

【コラム見・聞・感/36年ぶり 神恵内村長選こぼれ話】

 北海道寿都(すっつ)町と並んで高レベル放射性廃棄物最終処分のための文献調査に応募した北海道神恵内(かもえない)村については、本紙1710号にルポを書いた。今回は、そこで触れられなかった話を書いておきたい。

 2017年に公表した「核ごみ特性マップ」で、神恵内村を含む積丹(しゃこたん)半島全域を「不適地」とした資源エネルギー庁の判断は間違っていないと思う。積丹半島で神恵内村のちょうど反対側にある古平(ふるびら)町では、1997年に国道のトンネルが地滑りで崩壊。通行中の車が巻き込まれ犠牲者を出している。筆者も神恵内村に向かう途中、崩壊後再開通した豊浜トンネルを通ったが、薄暗いトンネルからミシミシと音が聞こえるようで不安で仕方なかった。こんな場所に核のごみを埋め、10万年後も安全と言われて、誰が信じるのか。

 神恵内村で最後に村長選が行われた1986年当時、筆者は高校に入学したばかり。忘れ得ぬチェルノブイリ原発事故はこの年に起きた。生徒たちとそれほど年齢も変わらない若い社会科教師が授業中「日本にも放射能は来ます。しばらく雨には濡れないで」と言ったことを今も忘れない。

 今回、神恵内村長選に出馬した瀬尾英幸さんから「核ごみは争点にしないつもりだ」と打ち明けられたときは少々驚いた。核ごみが重要でないというのではない。原発立地自治体だからこそ原子力施設に頼らないまちづくりを最優先で訴える必要があり、原子力施設からの脱却はその先の目標だというのだ。同じことは元岩内(いわない)町助役も語っている(本紙1658号)。

 そんな瀬尾さんに対して「ではなぜ神恵内で立候補するのか」「選挙戦にして現職が勝ったら核のごみ信任と言われかねない。余計なことをしないでほしい」と出馬を迷惑がる村民もいる。

 だが、筆者はそれでも村民に意思表示のための選択肢が与えられることが大切だと考える。寿都町では、勝ったはずの現職が「支持していただけると思っていたが、自信過剰だった」と述べている。長年無投票だった青森県六ヶ所村でも、出馬して迷惑がられていた反対派候補は今、村民から感謝されているという。瀬尾さんも「予想以上に反応はいい。わかってもらえるときは来る」と話す。

 2月27日の開票の結果、瀬尾さんは48票を獲得した。訴えは村民に十分、届いたと思う。 (水樹平和)
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