2022年03月18日 1715号

【哲学世間話 最悪の大学改造「10兆円大学ファンド」】

 一般にはあまり知られていないことだが、岸田内閣の最悪の大学改造計画、「10兆円大学ファンド」計画が実施にむけて、具体的に動き出した。

 国が主体となって10兆円規模のファンドを組み、その運用益を、2024年度以降、ごく少数の大学に研究資金として年間数百億円投入するという計画である。今年度中にもそのための法制化が図られる。これは、「科学技術立国の推進」による「成長戦略」の柱として、岸田内閣の肝いり施策の一つだと言われている。

 この計画は、「トップ級」数大学への「教育・研究支援策」と言える代物でさえない。その狙いは、従来とは桁外れの資金を投入することで、ごく少数の大学に民間企業の先端技術研究の肩代わりをさせることにある。しかも、その多額の研究資金の受け入れと引き換えに、大学は学内統治体制の自立性の解体を迫られる。

 というのも、この計画は、大学の従来の統治機構(理事会や大学長)の上に、企業代表者や投資専門家からなる「合議体」と呼ばれる統治組織を置くことを義務づけているからである。公表されている計画の素案では、この「合議体の権限」を「大学の長の選考や重要事項の決定権を与えること」と明記している。今でも形骸化している「大学の自治」など、これで完全に吹っ飛ぶ。選ばれた大学は、その管理・運営権が、政府が選定した外部の民間人に牛耳られるのは眼に見えている。これは、削減され続けてきた研究費の増額を渇望している大学への「毒まんじゅう」にほかならない。

 もう一つ見過ごせない点がある。それは支援大学の要件として、「事業収入の年3%成長」を義務づけていることである。

 医学部付属病院などをもたない普通の大学は、学生からの学費とは別の有力な「事業収入」源などほとんど持っていない。そもそも大学は営利団体でない。それでも、どの大学も手持ちの資金を運用していくばくかの「運用益」を得て、大学の運営費にまわしている。

 「年3%成長」要求は、「資金を出してやるから大学も真剣に金を稼げ。資金運用益をもっと上げろ」と要求しているのである。大学を営利目的の企業と同列視しているのである。

 「大学ファンド」計画は、「選択と集中」による大学の格差化にとどまらず、自立的な教育研究機関としての大学の解体策動である。

(筆者は元大学教員)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS