2022年03月18日 1715号

【ウクライナ危機を利用する安倍・維新/9条改憲、核武装を正当化/プーチンと同じ「力の信奉者」】

 世界の人びとがロシアの蛮行を糾弾し「侵略をやめろ」と立ち上がっている時に、進軍ラッパを鳴らす者がいる。安倍晋三元首相に連なる連中や日本維新の会の面々である。「憲法9条は無力だ」と言うが、連中のような危ない権力者がいるからこそ、縛りとしての9条が必要なのだ。

「核共有」まで主張

 ロシアがウクライナに軍事侵攻する事態を受け、日本国内では極右・改憲勢力がはしゃいでいる。「憲法9条では国を守れない」として、自前の軍備増強や日米軍事同盟の強化、はては核武装の必要性まで声高に叫んでいる。とりわけ、日本維新の会のイケイケドンドンぶりが目立つ。

 維新が政府に提出した緊急提言(3/3付)は「自衛力を抜本的に見直す」として、軍事費をGDP(国内総生産)の2%に増額することを当面の目標として要求。さらに「核共有による防衛力強化等の議論」を始めることを求めた。

 原案の段階では「核を持たない国は核保有国による侵略のリスクが高い」という文言があり、「非核三原則の見直し」も議論すべきだと求めていた。実際、松井一郎代表(大阪市長)は「昭和の価値観を改める必要がある」と主張。原子力潜水艦の保有(米国からの譲渡・リース)などの持論をぶち上げていた。

 核共有(ニュークリア・シェアリング)とは、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する政策のこと。現在、NATO(北大西洋条約機構)加盟国のドイツ、イタリア、トルコなどが採用している。

 核共有論がにわかに浮上したきっかけは、フジテレビの番組に出演した安倍晋三元首相の発言である。番組コメンテーターの橋下徹(元大阪府知事・維新創設者)から「日本も打撃力を持つべき」と水を向けられると、安倍は核共有に言及し「議論をタブー視してはいけない」と強調した。

広島・長崎の怒り

 核兵器を欲しがる安倍や維新の言動に対し、広島・長崎の被爆者から怒りの声が相次いでいる。安倍と面会したことがある広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長は、「原爆の日にはいつも『非核三原則を堅持する』と述べていたが、彼の本音が出たと感じた」と憤る。実際、安倍は「小型であれば原爆保有も憲法上問題ない」と公言したことがある核武装論者だ。

 日本原水爆被害者団体協議会は3月2日、維新提言の即時撤回を求める声明を発表した。代表委員の田中重光さんは「心の底から怒りがわいている。維新の言っていることが広がれば、すべての国が核を持つ。そのときは人類の滅亡だ」と、強く批判した。

 まったくそのとおり。安倍や維新の思考は「力の信奉者」そのもので、プーチン露大統領と何ら変わらない。かつて安倍はプーチンとの親密ぶりをアピールし、「ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている」とまで語っていた(2019年9月)。「同じ未来」とは、核カードで相手を恫喝することだったようだ。

暴走への縛りは必須

 ウクライナ情勢に便乗する連中の「9条攻撃」は典型的な藁(わら)人形論法である。相手の主張を単純化したり、極端にするような操作をし、その歪めた論点を非難することで議論を有利に進めようとする詭弁術のことだ。

 今回の使用例でいうと、「護憲派は憲法9条で戦争は防げると言っていた」とあざけり、「それでは国を守れないことがはっきりした」と勝ち誇るパターンである。維新は共産党攻撃に用いており、松井は「志位さん、共産党はこれまで9条で他国から侵略されないと仰ってたのでは?」とツイートした。

 しかし、憲法の本質を少しでも理解している者なら、松井らが揶揄するような空想的9条信仰にくみするわけがない。憲法は自国の国家権力に縛りをかけ、その暴走を防ぐための法規範だからである。

 そもそも、ウクライナの憲法に9条に相当する規定はない。よって今回の事態を受けて「9条は役に立たなかった」とするのは論理的に無理があり、成り立たない。逆に「ロシアの憲法に9条のような規定があればプーチンの暴走を防げた」というのであれば、話の筋は通っている。

 日本国憲法は前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすること」を決意している。その具体化が戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認を定めた9条である。今ほどその重要性が高まっている時はない。

 なにしろ他国が軍事侵攻されている事態をチャンスとみて、憲法を改定し軍備を増強せよだの、核ミサイルや原潜を持たせろなどと真顔で語る政治家がのさばっているのだから。やはり縛りは必要である。(M)

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