2022年03月25日 1716号

【ロシア軍 ウクライナの原発制圧/あらわになった原発の危険性】

 ロシアが、侵攻したウクライナ領内で原発を次々に支配下に置いている。1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原発をはじめ、南部ザポリージャ原発を制圧した。ロシア軍はウクライナの全原発を支配下に置くつもりだとの観測もある。原発が戦闘に巻き込まれるのは世界初で、新たな危険性が浮かび上がった。

 歴史を振り返れば、核保有をめぐるNPT(核不拡散条約)は1968年に62か国が調印し70年発効。日本は76年に批准した。米国、ロシア(当時ソ連)、英国、フランス、中国の5か国を核保有国と規定。これ以外の国へ核兵器が拡散するのを防ぐことが目的だ。同時に、これら5か国が核保有国としての既得権を維持する狙いもあった。

 核兵器や原発の燃料となる放射性物質は厳重な管理を行わなければ、いつ不測の事態、偶発的な事故により広範囲かつ高レベルの放射能汚染となるかわからない。このため核兵器製造が疑われる締約国、原発を運転する締約国にはIAEA(国際原子力機関)による核査察が行われてきた。

NPTの危惧現実に

 一方、5か国だけが核保有国の特権を認められる「早い者勝ち」体制は不公平だと反発する国々も現れた。イスラエル、パキスタン、インドなどはNPTに加入せず核武装に進んだ。NPT体制は、生まれながらにして運命づけられていた不公平さのため、政情が不安定な国々の手に放射性物質が渡ることを結果として阻止できなかった。

 ウクライナは核保有国・旧ソ連を構成する共和国として核兵器が配備され、いわゆる「平和利用」としての原発も建設された。

 1991年、ソ連解体によりウクライナは独立国家となった。独立後は旧ソ連時代に配備された核兵器を放棄したが、1986年チェルノブイリ原発4号炉で事故が起きたにもかかわらず、その他の原子炉は2000年まで運転を続けた。

 今では、チェルノブイリ以外の15の原子炉が運転を続け、発電量全体に占める原発比率(原発依存度)は54%(2019年)で、フランス、スロバキアに次ぎ世界3位。人口が約4千万人と日本の3分の1にもかかわらず、福島原発事故以降は原発の発電量でも日本を上回る。ロシアの侵攻はこうした状況下で起きた。

 チェルノブイリ原発事故では、IAEAが認めるだけでも9千人が被曝の影響で死亡した。36年後の今日でも廃炉作業が続いており、核燃料の貯蔵庫の一部が戦闘で破壊されたとの報道もある。ザポリージャ原発も戦闘に巻き込まれ火災が発生。ザポリージャは欧州最大級の原発であり、大規模な事故が起きれば影響はチェルノブイリの10倍と予想される。NPT制定時の危惧が現実になっている。


「平和利用」は虚構

 冨澤暉(ひかる)・元陸上自衛隊幕僚長は、軍事面から日本の原発も「テロゲリラ対策をしないと、福島原発事故以上の被害を招く恐れがある」と言う。だが、元原子炉メーカー技術者の佐藤暁さんは「原発は軍事攻撃に耐えられる安全性を有していない。戦争下においてはまったくの無力」と断言する。原発を軍事攻撃から「守る」には、限りない重武装化が求められる。

 原発は保有国を軍事大国化し、ひいては核武装を生み出し、世界を破滅へと導く。この面からも原発は廃絶しかないことを、ロシアのウクライナに対する軍事作戦が証明した。

 IAEAのグロッシ事務局長は、ロシアが侵攻を開始した2月24日に声明を発表。「平和目的の原子力施設に対する攻撃や脅威は、国連憲章、国際法、IAEA憲章の原則に違反する」とし「最大限の自制」「深刻な懸念」を表明した。だが今回の事態を招いた責任は、NPTから全面核廃絶への努力を怠って核不拡散にも失敗し、核の「平和利用」というまやかしで原発を推進してきたIAEAにある。紛争当事国に自制を求めるより核廃絶、原発即時廃止を訴えるのが先だ。

 くしくも今回のウクライナ原発危機は、福島原発事故11年と重なった。反核、反原発運動の力を結集するときだ。

 
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