2022年03月25日 1716号

【読書室/ルポ コロナ禍の移民たち/室橋裕和著 明石書店 1600円(税込1760円)/まず外国人から切られた】

 日本には本来の意味での移民政策≠ェない。だが、移民でもある外国人労働者を受け入れ、低賃金かつ劣悪な労働環境で酷使している。職場では、パワハラ、セクハラ、暴力支配が横行し、不況の際の調整弁としてまず解雇されるのが外国人労働者だ。困窮し犯罪に手を染める者が出てくると、その置かれた環境などを顧みることもなく、彼らを「不良外国人」としてバッシングする。

 こうした状況が続いていたところを新型コロナが襲った。移民たちはどうしているのか。本書は、一人ひとりの姿をルポする。

 「同じ職場の同じ社員でも、まず外国人から切られる」「『明日から来なくていい』といきなり通告」と日系ブラジル人などが口をそろえる。感染リスクの高い現場が外国人で支えられている実態も浮かぶ。

 一方で、著者は、彼らを単なる「弱者」とのみとらえているのではない。「僕たちと同じ、等身大の人間」として、仲間同士で助け合い、したたかに賃金を得、起業し、たくましく生きていく姿も追う。北関東や東海地方の製造現場で働く移民、暮らしの中で見えてくる学習支援と食料支援の実態、留学生や技能実習生の悩みを取材していく。

 10万円の特別給付金で一時的ではあれ「救われた」という移民もいる。だが、給付の対象にならなかった外国人がいた。難民である。その実態もまた過酷だ。

 現在、約300万人の外国人が日本で暮らしている。この数字は、日本社会で占める位置の大きさを示す。本書が明らかにしたものは限られてはいても、一部に光を当てながら全体を見通してほしい、と著者は考えている。    (T)
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