2022年04月08日 1718号

【ウクライナ戦争 停戦合意に進むには/ただちに銃砲を封じ市民に武器を持たせるな】

 ロシア軍のウクライナ侵攻からひと月以上経過した。停戦協議は断続的に行われているものの、戦闘は止まらず市民の犠牲が増えている。ウクライナ大統領ゼレンスキーは主要国の議会で軍事支援を呼びかけているが、今必要なのは武器ではなく停戦への努力だ。どうすれば停戦協議は進むのか。読者の疑問に答える。

停戦協議はどうなっているのか

 ロシアとウクライナの停戦協議は、軍事侵攻4日目の2月28日から始まった。以後、断続的に会議は行われるものの、いまだ合意には至っていない。

 何が議題となっているのか。最大の焦点はウクライナの「中立化」だ。

 ロシア大統領プーチンが軍事侵攻を決断した理由の一つに、ウクライナをNATO(北大西洋条約機構)に加盟させないことがあった。ゼレンスキーが「加盟断念」を口にするようになって、協議が進展した。

 英フィナンシャルタイムズ紙は3月17日、「キエフの中立宣言などによりロシア軍撤退を含む和平案が大きく前進した」と伝えた。ウクライナに米軍基地ができる可能性はあるのか。ウクライナ側は「外国軍基地は禁止」の法があるとしてロシア側の懸念はあたらないとの姿勢だ。

 3月21日に行われた停戦協議をトルコのメディアが報じた。▽ウクライナの中立化▽非武装化と安全保障▽「非ナチ化」▽ロシア語の使用制限解除▽東部ドンバス地域の帰属▽クリミア半島の帰属の6項目のうち、最初の4項目で歩み寄りがあったとしているが、ロシアの報道官は「進展なし」と否定。

 15項目といわれる和平案の詳細は不明だが、侵攻の直接的原因となった東部ドンバス地方やクリミア共和国の帰属の問題は避けて通れない。

 合意には時間がかかるとしても、市民の被害をこれ以上拡大させてはならない。和平協議中は一時停戦を即決するべきだ。

ドンバス内戦の停戦合意はどうなったのか

 ドネツク州とルハンスク州では、2014年から8年間内戦が続き1万数千人の犠牲者が出ている。

 最初の停戦合意は、14年9月に成立した。合意には3か月かかったが、就任したばかりのウクライナ大統領ポロシェンコ(当時)が和平案を示し、1週間の停戦を一方的に宣言したこともあった。

 最終的に12項目の議定書をまとめたのは、ウクライナ、ロシアとOSCE(欧州安全保障協力機構)の代表で構成する三者連絡会議だ。OSCEは1972年に全欧安全保障協力会議として発足した国際機関で、95年に現在の機構へと名称変更。加盟国は欧州に限らず、米国、カナダなどを含む57か国にもなる。三者連絡会議には14年の議長国スイスの外交官が参加した。

 この議定書には、交戦している武装勢力のうち、親ロシア側の「人民共和国」指導者2人が署名したものの、ウクライナ側の「義勇軍」の合意がなく、15年1月の段階で議定書は実質的に無効となった。

 議定書復活に向けた協議は2月、独・仏首脳が示した和平案をもとに再開された。米政府のウクライナへの軍事支援案に対抗する意味もあった。16時間にわたる協議の結果、「ミンスク合意2」が15年2月12日に成立。OSCEが2月15日から停戦監視行動を行うことになった。

ドンバス地方での停戦違反件数の推移

東部の帰属問題はどう解決されたのか

 合意書の基本的な枠組みは、両州の一部である「人民共和国」を「特定地区」とし、その「特別地位に関する恒久法」を制定するというもの。分離独立は認めず、自治区として強い権限を与えることを意図した。

 15年末までに憲法を改正し、ドンバス地方を想定した地方分権化の規定を設ける。恒久法で定める特別な地位とは、使用言語の決定権、検察官・裁判官の任命への関与、ロシアとの「国境を越えた協力」への政府支援、地方議会の「軍事部隊」創設権などの項目があがっている。

 基本的枠組みは前年の議定書を踏襲したもので、ウクライナ議会は3月17日、合意にある「暫定法」を承認。その後、「特定地区」の範囲を定め、選挙実施へ進むものと期待された。

 ところが、5月になってロシア側が追加提案。外国との協定締結権、独自憲法制定権、予算権、住民投票実施権などの自治強化条項とあわせ、中立条項を憲法に明記するよう求めた。

 ウクライナの民族政党は「暫定法」自体に「占領を追認するもの」と反発し、ロシアは「人民共和国との協議がない暫定法制定は合意違反」と主張するなど、結局、合意のプロセスは先に進まず、ドンバスでは戦闘が続いてしまった。

「分離独立」要求が戦争の原因なのか

 戦争は領土問題が引き金になるとの教訓から、戦争回避には領土保全の原則を堅持する必要がある。「武力による国境の変更」はありえないし、「独立」の願いを武力で鎮圧しても内戦を招くことになる。だが、平和的に国境を変更することは可能だ。

 植民地支配に対抗する民族自決権は、多くの独立国を生んだ。必ずしも一つの民族が一つの国を形成する必要はない。まして、言語や宗教、文化などの違いをもって国を分ける必要などもまったくない。多様な人びとが同じように尊重され、権利が守られていれば「独立国」をめざす必要性は生まれない。

 問題は、現在の国から分離・離脱したいと願う背景に何があるかだ。そこには権力者による不当な差別や迫害、虐待がある。たとえばウクライナでは20年1月にウクライナ語以外で書かれた広告を禁ずる法律が制定された。明らかにロシア語排除を狙ったものだ。

 支配者は分断と憎悪をあおり、被支配者の怒りの矛先を互いに向けさせることを常套手段とする。隣人に対する「憎しみ」が生まれるのは、そうした時だ。

市民の安全を保障するには何をすべきか

 戦闘が市街地に及んでいる。ロシア軍の無差別攻撃をやめさせなければならない。ロシア軍は学校や病院から攻撃を受けたと主張している。「ウクライナ軍が市民を人間の盾にしている」というのだ。ロシア軍が公開した映像は、市場の前に止まっていた軍事車両にミサイルを撃ち込んだものだった。そこに市民がいようと、戦闘が優先するというわけだ。

 そうした口実を許さないためにも、市民を武装させてはならない。武器を手にした市民は戦闘員となり、攻撃の対象とされるのは必然だ。「徹底抗戦」とは市民を犠牲にする方針なのだ。

 ゼレンスキーは19年の大統領選挙の時に、東部の内戦終結と政治腐敗の一掃を訴え、44人が乱立する選挙で70%を超える得票率で勝利した。就任後いったんは停戦への努力を行ったが、昨年ドローン爆撃を実行し、戦闘を激化させた。かつて和平案を示したポロシェンコのように、一方的に戦闘停止を命じる権限がある。少なくとも戦闘員を市街地から移動させ民間人と分離することはできるはずだ。

 ウクライナの安全が、軍事同盟によって保障されることはない。戦闘を前提とする集団的自衛権ではなく、武力行使に至らせない集団安全保障の仕組みを発展させることが必要だ。

 ミンスク合意を提案し、停戦監視にあたったOSCEは敵対するロシア、ウクライナも参加する集団安全保障をめざす国際機関だ。この機関がもっと調整力を発揮すれば、戦争は避けられるはずだ。

 ミンスク合意で独仏首脳が果たしたように、各国政府はウクライナへの軍事支援ではなく、実効性ある停戦合意に向け、最大の努力を払うべきである。

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