2022年04月08日 1718号

【未来への責任(345)  世界遺産登録と植民地主義克服】

 岸田政権は、「佐渡島(さど)の金山」(佐渡鉱山)について、韓国政府の反対を押し切って世界文化遺産への登録に申請書をユネスコに提出した。

 世界遺産はどうあるべきか。ユネスコは、戦争をなくすために教育、文化、科学を通じて人々の「心の中に平和のとりで」を築く国際機関として設立された。その後人類の共通財産として残すべき遺産を保護するために世界遺産条約がつくられた。そして2001年には「文化的多様性に関する世界宣言」で異文化間の相互理解の重要性を指摘し、紛争の原因となる異文化間の対立を解消しなければならないと宣言した。世界遺産はこれらユネスコが掲げる理念に合致しなければならない。

 日本の炭鉱や鉱山は、過酷な労働、数々の事故・災害、労働争議など民衆の苦難の歴史がある。そこに侵略戦争遂行のための労働力不足を補うための植民地支配下の朝鮮半島からの強制連行という「負の歴史」が加わる。佐渡鉱山も例外ではない。

 強制連行については多くの研究の蓄積がある。佐渡鉱山の朝鮮人強制連行も当時の会社の資料や未払賃金を記録した報告書などの一次資料が残されており、地元の相川町史や新潟県史の記述とともに強制連行が否定し難い歴史的事実であることが明らかにされている。世界遺産として登録されるためには負の歴史も含めた「全体の歴史」が示されなければならない。

 しかし、日本政府は佐渡鉱山の文化遺産としての「普遍的価値」を判断する対象時期を江戸時代に絞り明治以降の近代産業遺産を除外した。昨年7月第44回世界遺産委員会は、「明治産業革命遺産」の登録時に日本政府が強制連行の事実を認めて犠牲者を記憶にとどめる措置を講じると約束したにもかかわらず産業遺産情報センターの展示が約束を守っていない、として履行を求める異例の決議をあげた。日本政府は、今年の12月1日までに報告書をユネスコに提出しなければならない。これまでごまかしてきた強制連行の事実に向きあうのかどうかという局面を迎えている。

 「慰安婦」関連資料が世界記憶遺産に登録申請された時に、ユネスコは日本政府の抗議を受け加盟国が異議を申し立てれば当事国間で合意しない限り登録されない制度を導入した。世界遺産登録の「作業指針」にも同様の条項が追加され、関係国との合意がなければ登録はできない。

 国際社会は植民地主義克服の道を歩み始めた。2018年の韓国大法院判決や元「慰安婦」被害者の救済を命じた判決は、二国間条約や主権免除などの従来の国際法の「枠」を越えて植民地支配の犠牲者を救済する道を示した。しかし、日本社会はこれらの判決を真摯に受け止めようとしない。差別と貧困、戦争の原因としての植民地主義の克服と文化的多様性の尊重が世界の平和構築の「要」であることを日本社会自身が認識しなおさなければならない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)
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