2022年04月08日 1718号

【ドクター 原発事故の健康被害 事実は消せない】

 3月16日23時36分、福島県沖震源の地震は、東北大震災に遭われた方に強い不安・恐怖をもたらしました。宮城に住む知人は涙が止まらなかったそうです。

 福島第一原発の被害は、「処理水タンクが多数ずれる、水漏れ」「廃棄物コンテナ66基が転倒」「2号機使用済み核燃料プールの冷却が一時停止」などが報道されていますが、これらの報道の内容だけかどうか、本当の所は不明です。

 あろうことか、この地震による火力発電停止―電力ひっ迫を利用して原発推進を図る人たちがいます。彼らの頭には、原発事故と被害者の存在はないのでしょうか。福島原発事故現場はすさまじい放射能を出し続けているのです。さらに、事故により生活を破壊された人びとは何十万人もおり、多数の人が被害の補償などを求めています。

 放射線障害による健康被害はどうでしょうか? 福島県県民健康調査だけでも266人が甲状腺がんと診断され、222人が手術を受けています。岡山大・津田教授ら、医療問題研究会の山本医師らとドイツの生物統計学者シェアプ氏との共同研究などがその増加を証明しています。「増加はない」とするのは、原発推進派の非科学的な論文しかありません。チェルノブイリでは小児甲状腺がんの存在を認めた原発推進派は、福島ではその存在をも抹殺しようとしているのです。

 次世代への障害に関して、名古屋市大・村瀬准教授らの重症心臓奇形・停留睾丸の2論文、また、シェアプ氏・医問研共著で、出産前後1週間(周産期)での死亡率と、出生時体重2500c未満の赤ちゃんの率が、地域の事故による放射線量に比例して増加していることを証明した2論文があります。いずれも世界的な医学雑誌に掲載されています。

 村瀬2論文と周産期死亡増の論文は、原発推進派の国連科学委員会(アンスケア)が取り上げ、無茶苦茶な理屈で結論を否定しています。いわくこんな低い放射線量では障害が生じるはずがない=B自らが作った嘘の理論で、実際の障害を否定しているのです。このような非科学的論法は福島原発事故後とてもひどくなっています。

 しかし、事実を消し去ることはできません。甲状腺がんの患者6人が勇敢にも補償を求めて裁判に踏み切りました。この裁判は、科学を取り戻す闘いとしても大変重要です。医問研も支援団体に加わりました。

(筆者は小児科医)
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