2022年04月08日 1718号

【ゼレンスキー演説めぐる茶番劇/改憲勢力には期待外れ?/あさましき利用主義を露呈】

 一方的な期待感が空回り―。ウクライナのゼレンスキー大統領が行った国会演説に対する改憲勢力の反応である。連中は憲法9条批判に使える内容を期待していた。一方で、「プーチンべったり」の安倍外交や都合の悪い歴史問題に触れるのでは…と心配していた。まことにあさましい限りである。

9条叩きに使いたい

 3月23日に行われたゼレンスキー大統領の国会演説。外国の元首がオンライン形式で演説をするのは初めてのことで、自民、公明、維新、国民といういつもの面々が後押しした。連中の狙いははっきりしている。改憲論議に弾みをつける材料にしたかったのだ。

 初代スポーツ庁長官を務めた鈴木大地は、フジテレビの番組(3/23『めざまし8』)で次のような発言をしていた。「この平和ボケしている日本人に目を覚ますような、そういうスピーチを期待しますね。次は日本かもしれんぞ、というようなことで」「近所には招かざる客ってたくさん日本にはいますよね。そういった人たちが、あなたには平和憲法があるから、じゃあ私たちは行きませんねってそんなこと言ってくれますかね? 冷静になって国防の問題をしっかり訴えかけるようなきっかけになってくれればと思います」

 自民党が千葉県知事候補に担ごうとした人物だけあって、改憲勢力の願望を的確に代弁している。事実、山東昭子参院議長は演説を受けての謝辞で「閣下が先頭に立ち、貴国の人々が命をも顧みず、祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております」と礼賛した。

 しかし、実際のゼレンスキー演説は改憲勢力が期待するような軍国主義的なものではなく、山東議長の芝居がかった語りは悪目立ちしていた。思惑が外れたネトウヨ界隈からは不満すら出ている。「核兵器を手放すとこうなると言って欲しかった」「日米同盟や自国防衛の重要性に触れて欲しかった」等々。

 何という利用主義。連中の関心は9条叩きにしかなく、ウクライナ市民のことはどうでもいいのだろう。

「真珠湾」には反発

 さて、改憲勢力はゼレンスキーの演説に一抹の不安を抱いていた。岩盤支持層であるネトウヨが、米連邦議会演説(3/16)での「真珠湾」発言に激しく反発していたからだ。ゼレンスキーはこう訴えていた。

 「真珠湾を思い出してほしい。1941年12月7日、あなた方の国の空が、攻撃してくる戦闘機で黒く染まった時のことを。2001年9月11日を思い出してほしい。悪があなた方の都市を、独立国の領土を、戦場にしようとした時のことを。わが国は同じことを毎日経験している」

 米国の支持をとりつけるためのたとえ話だが(だから、広島、長崎への原爆投下には言及しない)、「日本は悪くない」史観に凝り固まったネトウヨは「ウクライナ支援を表明している日本に対して無礼」「お前らを応援するのやめたわ」と荒れまくった。

 さらに、お笑い芸人の松本人志までが「日本人としては受け入れがたいところがある。奇襲攻撃だったのは間違いないけど、民間人を巻き込んだわけではない。同じように語られるのはちょっと嫌だったですね」とコメントし(3/20フジテレビ系「ワイドナショー」)、火に油を注いだ。

 歴史を知らないにも程がある。日本軍による真珠湾奇襲攻撃では米民間人も68人死んでいる。ネトウヨは「軍事施設への攻撃に付随する被害だ」と正当化するかもしれないが、それはロシアのプーチン大統領が言っていることと同じだ。

 そもそも日本軍は「空からのテロ」のさきがけとなった戦略爆撃を行っている。中国の臨時首都となっていた重慶市への度重なる爆撃だ(1938〜1941年)。それは「都市・住民そのもの」に対する攻撃であった。加害の歴史を都合よく忘れるなと言いたい。

消えない安倍の罪

 ゼレンスキーはドイツの連邦議会でリモート演説した際(3/17)、同国の支援に謝意を示す一方、ロシアとの経済関係を深めて戦費を稼がせたと痛烈に批判していた。安倍晋三元首相とその応援団は、プーチンへのすり寄りを同じように非難されないかと、ひやひやしていたことだろう。

 結局、ゼレンスキーは日本とロシアの関係には深入りしなかった。自民党を刺激するのは得策ではないという判断からだろうが、独裁者を増長させた安倍外交の罪は消えない。

 かつてプーチンと「同じ未来を見ている」とはしゃいでいた安倍は、今回のウクライナ危機を利用し、核兵器の保有を含む軍事力増強の旗を振っている。プーチンと同類の危ない戦争バカには政界を即刻引退してもらいたい。   (M)

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