2022年04月08日 1718号

【読書室/汚染水海洋放出の争点 トリチウムの危険性/渡辺悦司・遠藤順子・山田耕作著 緑風出版 2700円(税込2970円)/政府の「危険度ゼロ」はウソ】

 昨年4月、政府は漁業関係者や近隣諸国などの反対を無視して福島事故汚染水の海洋放出を決定した。政府は、汚染水から除去できないトリチウム(三重水素)の危険度を事実上「ゼロ」としたが、それはウソでしかない。本書はトリチウムの危険性を明らかにし、海洋放出が「風評」ではない実害を生むと批判する。

 まず、トリチウムは放射性同位体である。これは政府も認める。ところが、トリチウムが放射線を放出するにもかかわらず、「放射能が弱い」など情緒的な表現で危険性を弱め安心感を与えようとしている。エネルギーが低くて速度が遅い「弱い」放射線は、「周囲の分子に反応性が高く、生物学的危険度がかえって高い」と放射線物理学で解説されている。麻生元副首相は「トリチウム水は飲めるもの」と暴言を吐いた。なお彼は飲んでいない。

 トリチウムを水の形で放出するとどうなるか。トリチウムは有機物との親和性が高く、水中にある有機物と結合する。その有機物を通じて人間の体内に侵入し、体内で放射線を放出する。海洋で希釈するから安全とは全くいえないのだ。

 本書は、一般の市民にも分かるようにトリチウムの危険性を解説する。数字などが頻繁に出てくるが、それを気にせず文脈を捉えながら読めばいい。

 本書は、また、放射能による環境汚染がウイルス・細菌などにも深刻な影響を与えてきたこと、さらにウイルス・細菌の突然変異を促進し新たなパンデミックを発生させかねないことも指摘している。

 トリチウムの危険性を広く知らせなければならない。そのための科学的事実を提供する一冊だ。  (I)
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