2022年04月15日 1719号

【ウクライナ戦争に便乗する好戦勢力/「防弾チョッキ」で日米合同空輸作戦/軍事同盟解消し集団安全保障へ】

 ロシアとウクライナの停戦協議が進展を見せ始めた。戦闘の即時中止と合意成立には、軍事緊張の継続を望む好戦勢力をいかに封じ込めるかにかかっている。日本政府はウクライナ危機さえ利用し、東アジアの軍事緊張を高めようと企んでいる。敵対ではなく信頼醸成の外交努力を行え―いま日本から上げる声だ。

経済制裁も脅迫

 停戦協議は3月29日、ウクライナ政府が和平案(中立化の条件やクリミア主権の15年間協議など)を示し、ロシア軍はキエフ周辺からの一部撤退に言及するなど、進展がみられた。8年前の「ミンスク合意」は「銃で脅された合意」との言い訳により、完全実施には至らなかった。今回、後戻りすることなく実効ある合意を得るには、まず戦闘を止め、当事者間の信頼を醸成することが不可欠だ。

 話し合いの環境をつくるためにも、各国政府はウクライナへの軍事支援をやめ、ロシアに対する経済制裁をやめるべきだ。

 日本政府はウクライナに対し防弾チョッキなどの軍事物資や資金援助を行い、ロシアに経済制裁を加えている。「ロシア経済へ打撃を与え、大統領プーチンを窮地に追い込む」ことを狙ったにしては、「抜け道」が用意され、制裁は「形」ばかりになっている。

 たとえば国際決済システムSWIFTからの排除。ロシア経済の主軸である天然ガス、原油の決済ができなくなると言われているが、購入代金の払込銀行は除外されており、取引に支障は出ていない。

 英石油大手シェルが撤退表明(2/28)したロシアの液化天然ガス事業「サハリン2」。G7と歩調をあわせるはずの岸田文雄首相は「エネルギー安全保障上極めて重要なプロジェクト」だから「撤退しない」と表明した(3/31衆院本会議)。

 そもそも「制裁」とは「懲罰」を加えることだ。「経済」を手段にしようが、「武力」を使おうが、威圧と脅迫により相手に自らの言い分を飲ませることにかわりはない。当事者間の和平交渉に新たな障害を持ち込むことにしかならない。

「正義の戦い」か

 結局、ロシア経済に打撃があろうがなかろうが「経済制裁」を続けるのは、「悪者ロシア」の世論を維持することに意味があるからだ。ウクライナ戦争を勧善懲悪劇として描くのは、「悪を懲らしめる」戦争に疑いを持たせないためでもある。好戦勢力はウクライナ危機で軍事強化が正当化できると捉えているのだ。

 自衛隊幕僚長は記者会見でウクライナ軍の立場に立った戦況を語り、防衛省防衛研究所の研究員が毎日のようにテレビで解説を加えている。防衛省・自衛隊が前面に出ることは通常ではありえないことだ。

 自衛隊の防弾チョッキが3回に分けて現地に送られた。3回目の輸送(3/16)に使われたのは米軍機だった。「自衛隊の装備品を積んだ米国の航空機がヨーロッパに向かい、ウクライナの勇敢な市民が自由のためにロシアと戦うのを助けるのです」。横田基地で米軍機を前に駐日米国大使がこう演説した。



 ウクライナへの軍事支援自体問題ではあるが、「支援」を利用して平然と日米共同空輸作戦が実行されたのだ。他にもこの時期に米軍との一体化が一段と進んでいる。

 日本版海兵隊「水陸機動団」は昨年12月、北海道・東北地方で米海兵隊と合同訓練を実施した。今年2月には米国西海岸カリフォルニア、3月には東富士演習場で合同訓練が続いた。東富士では陸自のオスプレイが初めて参加し、水陸機動団を運んだ。後続の米海兵隊オスプレイ2機の着陸地点確保が水陸機動団の任務だった。

 2018年設置以来、21年段階で2400人になった水陸機動団は、急速に米海兵隊のノウハウを蓄積している。

「中・露・朝の脅威」

 ロシアの蛮行とともに引き合いに出ているのが、中国と朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の脅威だ。

 特に朝鮮が3月24日に大陸間弾道ミサイルの発射実験を行ったことは、軍拡推進者にとっては絶好の材料になった。中国、ロシア、朝鮮を並べて軍事緊張を高めることができるからだ。

 米国防総省が3月28日に米議会に提出した「国家防衛戦略」では最も大きい脅威は中国、次にロシアがあげられているが、米本土に届くミサイルを朝鮮が持てば、当然、その次の脅威となる。

 岸田は「唯一の同盟国米国とは戦略を完全に整合させる」と言い「国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の3文書の検討を加速する」(3/27防衛大学校卒業式)と入れ込んでいる。「中国・ロシア・朝鮮」対「日・米・韓」の軍事対立構図を際立たせ、軍事力増強の正当性を書き込もうとしているのだ。

 そのために日米両軍は朝鮮沖での軍事訓練に韓国軍を巻き込もうと交渉を重ねている。この海域では、米韓での軍事演習は行われているが、日米韓3軍によるものはいまだかつて行われたことはない。大日本帝国軍による侵略の歴史が障害となり、韓国政府が同意しないからだ。

 日米韓の合同参謀議長会議が3月31日、11か月ぶりにハワイで開催された。あらためて3軍による軍事演習が議題になった。韓国は合意しなかったが、5月の政権交代による変化を期待していることは間違いない。「米国より日本の方が3国軍事演習に積極的」(3/31ハンギョレ紙)と韓国は受け止めている。日本政府はこの危機を利用して、東アジア侵略の負の歴史を塗り替えようとさえしている。

武力ではなく外交で

 ウクライナ危機から学ぶべきことは、領土の帰属をめぐり軍事緊張を高めてはならないということだ。「台湾有事」と声高に叫び、いまにも中国が武力統一を狙っているとあおる行為などもっての他だ。

 ではどうすべきか。軍事同盟による集団的自衛権、つまり武力で「守る」のではなく、軍事同盟を解消し、平和と互恵平等の原則に基づく集団安全保障体制を構築することだ。

 東アジアには、1994年に第1回が開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラム(ARF)が、加盟国相互間の信頼醸成や予防外交、紛争解決をめざす国際機関として設置されている。このARFにはASEAN10か国の他に日本や米国、中国、韓国、朝鮮など15か国と欧州委員会が参加し、アジア太平洋地域の集団安全保障をめざしている。欧州安全保障協力機構(0SCE)と同じように、軍事的に対峙している国も加盟しているのだ。

 こうした体制を発展させ、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」(憲法前文)する以外に道はない。

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