2022年04月15日 1719号

【時代はいま社会主義 第17回 反ファシズム統一戦線(2) ―ファシズムと右翼ポピュリズム―】

 前回は、ディミトロフ報告におけるファシズムの定義を説明し、ファシズムが通常のブルジョア民主主義ではなく、ブルジョア的階級支配のもう一つの形態である「テロ独裁」なのだと述べておいた。資本主義はその安定期には、通常の大統領制や議院内閣制といった、法の支配を受け容れる政府の形態を維持する。しかし資本主義社会が危機に直面した場合、ブルジョア国家は、法や権利を無視した執行権の行使や国家暴力装置(警察と軍隊)の動員に依拠しようとする。そもそも「独裁」とは、執行権が立法権と司法権よりも優越して三権分立を否定し、法による執行権への拘束をも拒否しようとする体制を指す。資本主義国家は危機の時代に、通常のブルジョア民主主義から独裁へと移行することがあるのだ。そして独裁への志向は、1930〜40年代の歴史上のファシズムのみならず、経済的・政治的・社会的危機に直面する現代の資本主義国家にも見いだされる。

 21世紀になって「右翼ポピュリズム」と呼ばれるようになった政党や政権は、かつてのファシズムによく似た政治手法をとっている。すなわち、危機の只中で人びとのあいだに蓄積していった不安と不満を、既成政党への批判や排外主義的な態度へとデマゴギーによって誘導することで、勢力を拡張していくのだ。

 右翼ポピュリズムの最もよく知られた実例は、米国のトランプ政権であろう。トランプは、移民を寄せつけないための壁をメキシコとの国境に設け、シリア難民の受け容れを拒否するといった排外主義的な政策をとっただけでなく、政権末期には支持者らによる連邦議会への襲撃を扇動した。

 ハンガリーの「フィデス」とポーランドの「法と正義」はいずれも新興の右派政党でありながら、旧与党の失策に対する市民の不満を糧にしつつ政権の座に居座りつづけている。両政権は、移民の排斥とEUへの反発という点で共通しているだけでなく、裁判所の人事への介入とメディアからの独立性の剥奪という政策でも一致している。裁判所の人事への介入については本年2月にEUの司法裁判所が、「法の支配」を脅かすものだとして両国に対するEU予算の執行停止を承認した。

 右翼ポピュリズムの台頭は、欧州の大国でも見られる。フランスでは本年4月10日に大統領選挙の第1回投票が行われる。現職のマクロン大統領には、経済格差を拡大した内政の失策のせいで、前回の2017年選挙で見せたような勢いはもはや見られない。代わって、極右政党「国民連合」の党首であるマリーヌ・ルペンが支持を広げている。反イスラムと反EUを旗印にしてきたルペンが大統領に当選するなら、それは、「ドイツのための選択肢」、デンマークの「国民党」、オランダの「自由党」といった欧州の新興極右政党をさらに勢いづけせることになりかねない。

 そして私たちは、政権交代を経ずとも資本主義国家が独裁的な形態へと移行しうることを知っておく必要がある。そのことはたとえば、ドイツ基本法(憲法)に定められている緊急事態条項や、日本の自民党が2012年に公表した改憲草案における緊急事態条項に当てはまる。それらは、支配階級が「国家の危機」だと認識した状況において、三権分立と基本的人権の効力とを停止し、執行権による独裁を出現させる。

 ディミトロフが力説した「反ファシズム統一戦線」は、今日でもなおその重要性を失ってはいない。《続く》

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編集・発行:民主主義的社会主義運動 理論政策委員会
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