2022年04月29日 1721号

【沖縄新基地 設計変更の承認迫る政府/法を踏みにじる参戦内閣/戦争につながる一切を拒否しよう】

 国土交通大臣は4月8日、沖縄辺野古新基地建設工事の設計変更を承認しなかった沖縄県玉城デニー知事に対し、不承認処分を取り消し、4月20日までに承認するよう勧告した。沖縄防衛局が2021年12月に申し立てた行政不服審査請求に4か月で出した裁決だが、国交大臣の結論は決まっていた。3度目の茶番劇だ。何度でも指摘しなければならない。市民の命と生活を危険にさらす戦争国家づくりに猛進する岸田政権の無法ぶりを徹底的に糾弾する。

不当な裁決と勧告

 国交大臣は行政不服審査法(行審法)に基づく裁決と同時に地方自治法による勧告を出した。これまでは沖縄県による公有水面埋立法(公水法)の承認取り消し(15年)、承認撤回(18年)の処分を取り消すことで足りた。その都度、仲井眞弘多知事の承認(13年)が生き返り、工事が続行できたからだ。

 今回は違った。大浦湾側の埋め立て工事に入るには当初承認された設計を大きく変更し、改めて承認を得なければならないからだ。当初の設計には見込んでいなかった大規模な軟弱地盤対策工事が必要となった大浦湾側は、埋め立て工事の85%にあたる。「変更」というよりは「新たな計画」なのだ。

 政府は軟弱地盤の存在を知らなかったわけではない。着工(15年)を急ぎ既成事実を積み上げるため、知らぬふりをしたのだ。早期完成のためには真っ先に着工する計画だった大浦湾側の護岸工事を7年間も先送りしてきた。とうとう軟弱地盤対策工事を進めなければならないところに差しかかったというわけだ。

 不承認の取り消しだけでは大浦湾の護岸工事はできない。変更の承認が必要だ。国交大臣は行審法の審査庁の立場だけでなく公水法担当大臣の立場を使い、地方自治法で沖縄県に承認を迫った。期限をつけ具体的是正措置(承認)を勧告するのは強権的な「代執行」(第245条の8)への第1歩としているのだ。

 しかし代執行をするには「法令違反により、著しく公益を害することが明らかな場合」に限られる。「法令違反」を犯しているのは沖縄県ではなく、政府ではないか。「是正の指示」など他の手段をとらず、即勧告は余程切羽詰まった状況にあることを示している。

承認基準に不適合

 政府は何をもって「法令違反」「公益を害する」というのか。

 そもそも公水法は、誰もが使える公的な海を土砂で埋め立て、造った土地を私的に利用しようとする行為を許す場合のルールを定めたものだ。国の施設であっても同じ基準で承認を受ける必要がある。

 大前提は海を埋め立てる必要性がなければならない。普天間基地は代替施設がなくてもすぐに閉鎖できる。それを問わないにしても、なぜ辺野古崎周辺の埋め立てが「唯一の解決策」なのか。当初からの問いかけに、政府はいまも合理的な説明を行うことができない。

 そのうえで、公水法第4条は(1)国土利用上適正かつ合理的であること(2)環境保全及び災害防止に十分配慮していること(3)用途が法令で定める土地利用・環境保全計画に反しないことなど6項目を最小要件と定めている。少なくともこの要件を満たさなければ認めてはならないのだ。

 沖縄県は沖縄防衛局が提出した変更計画をこの承認要件に照らして審査し、満足していると認められないから不承認とした。

 特に(2)、災害を防止するうえで護岸の安全性は不可欠だ。その審査で最も重要となるのは軟弱層の最深部の地盤の強度。それをはかる力学試験を実施せず、推測に基づき計算しており安全が確認できないとの指摘は重要だ。沖縄防衛局は「必要ない」の一点張りで、国交大臣も追認している。

地震無視で原発惨事

 県は不承認理由にあげてはいないが、沖縄防衛局は技術基準書を無視した耐震設計でごまかしている。

 どれだけの地震力を想定するか。耐震設計の基準では辺野古新基地の供用期間(50年)に1〜2回発生する確率を持つ地震をレベル1、発生確率は低いが想定される最大規模の地震をレベル2とし、それぞれの地震に対し損傷の程度を定めている。「港湾の施設の技術上の基準」(国土交通省令)ではレベル1で「継続使用が可能」、レベル2では「軽微な修復で機能回復」程度の損傷としている。

 ところが沖縄防衛局はレベル1を検討しただけだ。しかも、レベル1の地震動は過去に辺野古周辺で観測された3つの地震パターンを採用すべきところ、09年のM(マグニチュード)4・9、08年のM4・8の2つの地震だけ。10年に発生したM7・2の地震を無視し、結果、過少評価している。



 さらに政府の地震調査研究推進本部が3月25日に公表した「長期評価」によれば、南西諸島周辺海域ではM8クラスの巨大地震が発生する可能性がある。M8はM5の3万倍のエネルギーとなる。沖縄防衛局の設計がいかにお粗末かがわかる。



 この長期予測を受け、沖縄辺野古調査団(代表立石雅昭新潟大学名誉教授)は辺野古埋め立て工事の全面的な見直しが必要だと声明を発表した。調査団はすでに提出された変更設計では震度2前後のわずかな揺れで護岸が崩壊することを明らかにしている。地震調査研究推進本部の長期評価を無視した結果が福島原発事故につながったことを忘れてはならない。

 構造物の安全性をないがしろにし、「法令違反」をしているのは沖縄県ではなく政府・防衛省なのである。

ウクライナ戦争に便乗

 政府は、私人なりすましの行審法悪用で、沖縄県が行った正当な公水法に基づく不承認の決定を覆してきた。国と自治体の対等な関係を定めた地方自治法の趣旨を無視し、自治権を踏みにじる不当な関与を行ったのだ。

 こうした作戦は毎週月曜日、首相官邸で開催された「辺野古会議」で練られていた。国交省出身の和泉洋人首相補佐官(当時)が防衛、国交、法務各省の官僚を非公式に集めて「知恵を絞れ」と檄(げき)を飛ばしていたという(21年10月24日朝日)。

 菅内閣総辞職に伴い辺野古会議も終了したとのことだが、今も国交省の技官が防衛省に出向し、辺野古埋め立て工事の陣頭指揮にあたっている。その数6年間で延べ35人、昨年12月時点で10人が在籍していた。国交省が自らの定めた公水法承認基準や港湾施設の技術基準をいかにかいくぐるかの悪知恵を絞り出しているのだ。

 検事や裁判官出身の法務官僚が法の曲解理論を生み出したのも同様だ。「かなりグレーな感じがする」(同朝日)と政府関係者さえ口にせざるを得ない悪質な手法で辺野古建設に突っ走る自民党政権。安倍・菅・岸田と間違いなく戦争国家へ近づいている。

   *  *  *

 国交大臣の裁決は前回の6か月に比し速く出た。結論は最初から決まっている。沖縄の反発を抑え込むタイミングをはかっていただけだ。なぜこの時期になったのか。ウクライナ戦争の支援ムードが基地反対世論を抑え込むのに役に立つと考えたに違いない。ウクライナを軍事支援する参戦内閣がやりそうなことだ。

 だからこそ、沖縄戦の教訓「軍隊は住民を守らない」を全世界の市民と共有し、戦争につながる一切の動きを封じなければならない。辺野古新基地建設阻止を国際的な反戦反基地ネットワークづくりとともに実現しよう。
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