2022年04月29日 1721号

【非正規労働者の「無期転換」 内実はジョブ型正社員化 解雇自由社会を狙う】

 3月30日、厚生労働省の「多様化する労働契約のルールに関する検討会」(座長―山川隆一東京大学大学院教授)は、無期転換ルールに関する見直しや多様な正社員の労働契約関係の明確化等について報告書を公表した。

条件改善なき「無期転換」

 無期転換ルールとは、2012年の労働契約法改正において第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)として定められたもの。有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約に転換できるルールである。

 注意すべきは、無期雇用になるというのは直ちに正社員(従来の正規雇用労働者)になるのではないことだ。無期転換後の労働条件は、「現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く)と同一の労働条件とする」と定められているからだ。

 この法改正は、非正規労働の主な形態である有期雇用労働契約が本来の「臨時的、一時的な必要に応ずるための雇用形態」の域を超えて過度に悪用されているとの認識のもと、これを是正するためのものであった。

 しかし、それは非正規労働者を直ちに正社員にするのではなく、「ジョブ型正社員」とすることを狙ったものだった。通常、非正規労働者は、職務も労働時間も勤務地も限定して雇われる。法文に従えば期間の定めはなくなるが、職務や時間、勤務地についてはそれまでと同様限定された契約ということになる。賃金も変わらない。

 ジョブ型正社員とは、政府・厚労省によれば、「職務、勤務地、労働時間のいずれかの要素(または複数の要素)が限定される社員」をいう。「多様な正社員」もまったく同様の意味で使用されている。

 報告書は「2018年度及び2019年度に無期転換ルールにより無期転換した労働者は、約118万人と推計される等、無期転換ルールにより雇用安定が一定程度図られたと言える。…無期転換申込権が生じた者のうち、無期転換を申し込んだものは約3割である等、権利を行使していない労働者も多く、制度が必ずしも十分に活用されていないことをうかがわせる実態も見受けられる」とする。「現時点で無期転換ルールを根幹から見直さなければならない問題が生じている状況ではないが、…有期労働契約や無期転換制度について、労使双方が情報を共有し、企業の実情に応じて適切に活用できるようにしていくことが適当」と結論づける。

 眼目は、現に進行している非正規労働者のジョブ型正社員化という政策を強力に推進することにある。

解雇撤回裁判を封じる

 報告書のもう一つの柱は「多様な正社員の労働契約関係の明確化」である。労働基準法15条は、労働契約締結時の労働条件明示を定めたもの。ここでは雇い入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示することとされている。報告書はさらに多様な正社員に限らず労働者全般について、就業場所・業務の変更の範囲を追加することを求めている。また、労働契約締結時だけでなく労働条件が変更された際の労働条件も書面にて明示するよう法文化することが強調されている。

 「契約明文化」というと一見改善のように見えるがそうではない。ジョブ型正社員は、職務の必要性がなくなったり、勤務する事業所廃止等にともない正社員よりも解雇されやすい労働契約となっている。そのため、就業場所や業務の変更の範囲まで文書で明示することで裁判で争うことを諦めさせ、解雇を容易にする準備をしているのだ。

 経団連は2020年、当時の中西宏明会長がジョブ型雇用の導入を表明した。以降、グローバル企業におけるジョブ型雇用への転換が急速に進んでいる。

 厚労省検討会と連動し、従来解雇が困難であった正社員を自由に解雇できる不安定雇用にしていく動きがある。全労働者の課題として解雇自由社会を阻止しなければならない。

 
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