2022年04月29日 1721号

【プーチンと同じ発想の自衛隊/「反戦デモ」「報道」を戦いの対象に/デモ排除を想定した訓練も】

 防衛省が「予想される新たな戦いの様相」として、テロやサイバー攻撃とともに「反戦デモ」「報道」を例示していたことがわかった。安保法制の発動対象となる「グレーゾーンの事態」に挙げていたのである。反戦運動や都合の悪い報道は「国家の敵」―。今のロシアと同じである。

陸自トップも明言

 問題の資料は防衛省陸上幕僚監部が作成し、記者を対象とした2020年2月4日の勉強会で配布された「陸上自衛隊の今後の取組み」と題する文書。日本共産党の穀田恵二衆院議員が入手し、3月30日の衆院外務委員会で暴露した。

 資料は安保法制の発動対象である「グレーゾーンの事態」について、「武力攻撃に至らない様々な手段により、自らの主張を受け入れるよう相手に強要」するものと説明。その具体例としてテロやサイバー攻撃、特殊部隊による破壊活動などと並んで、「報道」「反戦デモ」と明記した。

 参加した記者から「不適切」との指摘があり、資料は翌日回収され、保存期間1年の公文書であるにもかかわらず、ただちに廃棄された。防衛省は「担当者のミスで、隠蔽ではない」と釈明するが、見え透いた嘘にも程がある。自衛隊の本音が出てしまった文書を大急ぎで消し去ろうとしたことは明らかだ。

 事実、陸上自衛隊のトップが陸幕資料と同じ認識を吐露していたことがわかっている。2019年10月、当時の湯浅悟郎陸上幕僚長が、旧陸軍出身者や陸自元幹部らの親睦団体「偕行社」の総会で行った講演で次のように述べていた。

 「グレーゾーン事態にどう対応するかを考える。これらは報道戦、テロ行為、扇動による反戦デモなど多様な形態がある。この事態の特徴は、国家が非常事態であると認識する以前に反戦気運などを高めて国家崩壊へ向かわせてしまう危険性があること」

 戦争反対の主張を伝える報道やデモを“国家を崩壊に導く利敵行為”とみていることがわかる。よって、グレーゾーン事態=準有事とみなし、治安出動や警護出動で取り締まるべきだと言いたいのだろう。

まさに安倍路線

 そもそもグレーゾーン事態とは、有事(戦争)とまでは言えないが、警察権だけでは対応できない恐れのある事態のことを指す。政府は安保法制の制定過程で「武装集団の離島上陸」や「公海上での民間船への襲撃」といったケースを例示していた。

 ところが、自衛隊幹部はグレーゾーン事態の解釈を勝手に拡大し、反戦デモや自分たちに都合の悪い報道まで「敵」の攻撃の一種ととらえている。こうした発想は、ウクライナ侵攻に反対する市民を「裏切り者」呼ばわりし弾圧しているロシアのプーチン大統領と同じものだ。

 陸幕資料も陸幕長の講演も第2次安倍政権時代のものである。自衛隊の暴走というよりは、安保法制を推進した安倍晋三首相(当時)の戦争路線に沿った動きとみてよい。やはり安倍は戦争犯罪人のプーチンと「同じ未来」をみていたということだ。

国家の暴力装置

 「今でも自衛隊は国民の生命、財産を守るものだと誤解している人が多い。…国民の生命、身体、財産を守るのは警察の使命(「警察法」)であって、武装集団たる自衛隊の任務ではない。自衛隊は『国の独立と平和』を守る(自衛隊法)のである。この場合の『国』とは、我が国の歴史、伝統に基づく固有の文化、長い年月の間に醸成された国柄、天皇制を中心とする一体感を享有する民族、家族意識である。決して個々の国民を意味しない」

 これは、栗栖弘臣・元統合幕僚会議議長が自著で述べていたことである。彼らの論理では「軍隊は住民を守らない」のは当たり前であって、国家を守る軍事作戦の妨げになるとみなせば、自国民に対してでも平気で銃口を向ける。

 これを歴史的に証明したのが、日本軍が住民をスパイ視して虐殺する事件が多発した沖縄戦である。「軍隊は住民を守らない」どころではない。作戦上、殺すこともあるのだ。

   *  *  *

 陸上自衛隊と佐世保基地所属の米海軍が2020年11月、米軍基地反対の抗議活動を行う市民の排除を想定した訓練を共同で実施していたことが判明した(4/15しんぶん赤旗)。米国防総省の映像ニュースサイトが配信した写真をみると、「デモ参加者」に見立てた3人の前に、銃を構えた自衛隊員が対峙している。

 これが軍隊という国家の暴力装置の正体だ。ウクライナ情勢を利用した軍拡推進の世論操作に惑わされ、「強い軍隊がいてくれた方が安心だ」などと錯覚してはならない。   (M)

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