2022年04月29日 1721号

【読書室/消された水汚染 「永遠の化学物質」PFOS・PFOAの死角/諸永裕司著 平凡社新書 980円(税込1078円)/汚染と基地を結んだ調査報道】

 「有機フッ素化合物(PFOS〈ピーフォス〉・PFOA〈ピーフォア〉)」―聞いたことのある読者はどのくらいいるだろうか。大手メディアにこの言葉が登場することはほとんどない。沖縄では、2016年嘉手納基地周辺の浄水場からPFOSが検出され、以降地元紙が大々的に報じているにもかかわらず、である。筆者もまた、初めて耳にしたのは2018年という。

 PFOS・PFOAは水も油も弾く性質を持つ。その特性からフライパンや防水スプレー、米軍基地の泡消火剤などに使われている。一方、この物質は健康に悪影響を与える。腎臓がんなど6つの疾病を引き起こすことが指摘され、現在は世界的に製造と使用が禁止されている。日本では2010年に禁止された。

 禁止されたので問題はなくなったのか。この化合物は分解されにくい性質を持ち、「永遠の化学物質」とも称されるものだ。この危険物質が地下水に紛れ込むと深刻な事態をもたらす。

 地下水の流れをつかむことは困難だ、と専門家が証言する。「1日に1メートルも流れるかどうか。ほぼ止まっていると考えたほうがいい」。分解されないままのこれらの物質を含む止まった状態の地下水とその利用について想像するだけで怖くなる。

 沖縄での汚染が米軍基地由来ならば、全国どこの基地周辺で起きてもおかしくない。東京・横田基地に隣接する多摩地域でも現にあった。著者は、この問題を徹底した取材で暴いていく。危険物質に汚染された地下水の存在とその地域の特定を行い、問題を隠蔽しようとする行政、さらには日米地位協定の壁に迫っていく。本書は、こうした調査報道の記録である。  (T) 
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