2022年05月06日 1722号

【ウクライナ戦争で株価高騰する軍需産業/ロシア制裁で米天然ガスシェア拡大か】

 ウクライナ戦争は3月末、一旦停戦協議が進展しロシア軍がキエフ周辺から撤退を始めたものの、戦争犯罪報道とともに協議は中断、戦闘が激化した。残念でならない。市民の犠牲が増えるばかりだ。

 一方で戦争が長引いた方が得をする輩(やから)がいることを忘れてはならない。

泥沼化が利益生む

 最もわかりやすいのは、軍需産業だ。兵器が消費されるほど儲けにつながる。ロシア軍戦車を破壊している対戦車ミサイル「ジャベリン」は世界1位の軍需企業米ロッキード・マーティン社が製造・販売。バイデン政権だけでなく欧州の政府が購入し、ウクライナに提供している。

 さらにバイデン大統領は4月14日、ゼレンスキー大統領との電話会談で、軍事ヘリ「Mi17」11機をはじめ自爆型ドローン「スイッチブレード」300機など8億ドル(約1000億円)の追加支援を約束した。ウクライナへの軍事支援は米欧あわせ総額50億ドルともいわれる。そのまま軍需産業の売り上げになる。

 ストックホルム国際研究所の調査によれば、世界の軍需産業100社の2020年の売上高は5310億ドル(約60兆円)。5年間で17%増えた。コロナ下でもだ。ウクライナ戦争はさらに利益を上乗せする。



 この軍需産業と「利益」をともにしている政治家がいる。直接株主になっている米英の国会議員は多い。多額の政治献金を得ている者もいる。

 バイデンは早くから「ロシア侵攻は確実」と危機を煽り、プーチン大統領との会談ではNATO(北大西洋条約機構)不拡大の申し出を一蹴。「米軍は派兵しない」とロシアの軍事行動を誘い、侵攻後は「プーチンは犯罪者」「その座にとどまるべきではない」と政権打倒の激しい言葉を繰り出した。今日までのシナリオができていたかのようだ。

 「歴史上もっとも金融資本、軍需産業に影響される政権」(外交評論家孫崎亨)と評されるバイデン政権は停戦交渉には冷淡だ。むしろゼレンスキーを鼓舞し、「徹底抗戦」を後押ししている。米兵の犠牲を伴わない戦争は大歓迎なのだ。

経済制裁も好機

 軍需産業とともにこの戦争をチャンスと捉えているのが米国天然ガス資本だ。米国は「シェールオイル革命」により生産量が急増した。大量消費地である欧州市場を狙った。欧州は大半をロシアに依存している。ドイツは55・2%がロシアからだ。米国エネルギー省の輸出量長期見通しには、現在ウクライナ経由のパイプラインで欧州に送られているロシア産天然ガス量に匹敵する量が、欧州・アジア市場をあてにして計上されている(石油天然ガス・金属鉱物資源機構『石油・天然ガスレビュー』2019年7月号)。

 それは食料についても言える。欧州の穀倉地帯であるロシアとウクライナの生産量が落ちれば、その分の需要が見込めるということだ。実際、米国産穀物に注文が殺到しているという(『選択』4月号)。対ロシアの経済制裁は米資本の儲けにつながっている。

 資本主義経済は個々の資本が利潤を最大にしようとするため、需要を上回る過剰生産が生じ、デフレに陥る。これまで戦争のたびに生産力が破壊され、帳尻をあわせて延命してきた。ウクライナ戦争でも同じメカニズムが働いているのだ。

 この生産力破壊に加え金融資本による投機的な行動が米国を初めとするインフレに拍車をかけている。実際の原油生産量が減っているわけでもないのに、石油価格が急騰しているのはその証左だ。





   *  *  *

 資本主義がいかに腐敗しているか、軍需産業の株価高騰がよく表している。戦争がもたらす悲劇などお構いなしに、金勘定に専心する輩がこぞって戦争継続を期待して株を買っている。世界第2位の米軍需企業レイセオン社最高経営者は1月の段階で「東ヨーロッパの緊張、南シナ海の緊張、…そこから利益を獲得できるであろうことを最大限期待している」と投資家にむけて報告しているという(ネット情報誌『THE CONVERSATION』3/9英エセックス大学経営学教授ピーター・ブルーム)。

 人の命を利潤にする軍需産業、人の不幸にさえ金儲けの好機を見出す金融資本。こうした輩と利害をともにする政治リーダーが停戦を妨害しているのだ。戦争を必然とするグローバル資本主義そのものを変革しなければならない。
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