2022年05月06日 1722号

【和歌山県議会カジノ整備計画否決/「地域活性化」幻想に終止符を】

 和歌山県議会は4月20日の本会議で、カジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画を否決した。カジノを推進してきた自民党議員からも「資金計画が不透明」と反対が出た。賛成18票に対し反対22票。僅差ながら、カジノ誘致の暴走にストップをかけたことは極めて重要だ。多少なりとも良識が残っていた。県は政令で定める4月28日の期限までに整備計画の認定を申請することができず、カジノ計画は白紙となった。

逃げ出す投資家

 いかに杜撰(ずさん)な計画だったか。予定地は和歌山市の人工島「和歌山マリーナシティ」。テーマパーク「ポルトヨーロッパ」の再生も期待し、カジノを誘致すれば来場者は開業3年で650万人、今の倍以上の人が押し寄せると見積もった。この段階ですでに怪しい数字になっている。

 カジノを開設するために必要な国際会議場や展示場などを建設するには総額4700億円の資金を要する。調達するのはカジノ事業者なのだが、名乗りを上げたのはカジノ事業の実績のないカナダの投資ファンドだけだった。

 しかも資金の7割をスイスの銀行団からの借入、3割を企業15社が負担するというだけで、銀行融資の確約書は示せなかった。

 見過ごせないのは和歌山県知事の発言だ。「地域経済再生の切り札を失った」と悔しがっていることだ。計画予定地のテ―マパーク「ポルトヨーロッパ」は1994年、松下興産(当時松下電器グループの不動産部門)が手がけたものの、2000年代には5000億円を超える有利子負債を抱え、撤退している。

 当時、地域振興を掲げた総合保養地域整備法(リゾート法)が成立(87年)し、全国各地に類似のテーマパークやリゾート地が乱造されたときだ。規制緩和による乱開発が自然破壊や地域財政の圧迫などを引き起こした。知事の発言は過去の「地域開発」の失敗から何も学んでいないことを示している。「IRなんかに期待せざるを得ないほど衰退している地方の現実こそが問題だ」(4/21毎日)とのベテラン県議の発言は極めて真っ当なものだ。

市民の良識が鍵

 さすがに大阪市の松井一郎市長は「大阪はメガバンクが融資を約束してくれている。和歌山とはIRでめざすところも違う」(同毎日)と自己区別している。維新がIRに寄せる期待は「地域の利益」ですらなく、身内の利権に尽きるということだ。カジノ業者の言いなりに税金を投じても、自分の懐は痛まない。何ともあさましい限りだ。

 和歌山県議会が瀬戸際でストップできたのは、和歌山市民が住民投票直接請求署名運動で2万筆超を集めたことが反映している。維新が支配する大阪の府市議会はわずかな良識すら示さなかった。いま大阪府内各地で取り組まれている住民投票運動が市民の良識を形にする以外にない。

 カジノに経済再生を託すなど、ギャンブル≠ノもならない。財政破綻、地域崩壊は必至だ。
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