2022年05月06日 1722号

【旗振り役は安倍晋三/「ウクライナ」を利用した大軍拡/軍事費倍増、「敵中枢」も攻撃】

 ウクライナ戦争に便乗し、政府・自民党が軍事力増強の大攻勢をかけている。軍事費を倍増し、「敵基地攻撃能力」は攻撃対象を拡大して保有する等々。おまけに、「プーチンべったり外交」の張本人、安倍晋三元首相が旗振り役ときた。厚顔無恥にもほどがある。

実態は先制攻撃

 自民党の安全保障調査会が軍事力強化に向けた提言案をまとめた。近く岸田文雄首相に提出する。いわゆる「敵基地攻撃能力」は、名称を「反撃能力」と改めた上で保有を求めている。攻撃対象を「誘導弾基地」に限定せず、「指揮統制機能等も含む」とした。

 防衛費(軍事費)の大幅増も盛り込んだ。5年以内をめどに対GDP(国内総生産)比2%以上にするよう求めており、実現すれば単純計算で年間約11兆円になる。また、武器輸出の基準(防衛装備移転三原則)も緩和し、他国から侵略された国・地域への「幅広い分野の装備の移転」を検討するとした。

 文面上は「専守防衛の考え方の下」という留保を付けているが、実際には先制攻撃(政府機関や民間インフラも攻撃対象)を可能にする内容である。日本国憲法の根幹をなす平和主義を骨抜きにするものだ。

 政府はすでに「敵基地攻撃」に使用可能な兵器を準備している。スタンド・オフ・ミサイルと呼ばれる長距離巡航ミサイルだ。米国製とノルウェー製ミサイルの導入が決まっているが、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」を基に国産ミサイルの開発も進めている。これを海上自衛隊の潜水艦に搭載する計画が検討されているという。

 しかも、「対領空侵犯措置」を主任務としていた航空自衛隊の「戦闘機」をすべて、対地・対艦攻撃が可能な「戦闘攻撃機」に更新することが決まっている。「敵」の施設を破壊する巡航ミサイルを搭載できるようにするのである。

 提言案は「わが国への武力攻撃」を前提にしているが、ごまかされてはならない。安保法制の成立によって、日本が直接攻撃されていない場合でも、自衛隊は武力行使できるようになっている。集団的自衛権を発動し、米軍とともに「敵」の中枢を攻撃する―。これこそが現実的に最も想定されうる事態なのだ。

死の商人国家に

 自民党の要求どおり軍事費を増やせば、約6兆円の増額になる。これは消費税2%分に相当する。増税はもちろん、教育・医療・社会保障予算の削減は必死だ。軍拡の負担は市民が負うことになるのである。

 「武器輸出」基準の緩和も大問題だ。今は原則として武器・弾薬の提供を認めていないが、これを可能にしたいのである。背景には、欧米の軍需産業がウクライナへの最新兵器供与で大儲けしている今、その背中が見えないほど置いていかれたという日本の軍産複合体の危機意識がある。

 事実、政府は新たなウクライナ支援策として自衛隊保有のドローンを提供することを決めた。たやすく軍事転用できるドローンを現在戦争をしている国に提供する―。なし崩しの戦争加担であり、「死の商人国家」への仲間入り宣言と言うほかない。

調子に乗る安倍

 ロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、「俺の出番だ」とばかりにはしゃぎまわっている者がいる。察しのとおり、安倍晋三元首相のことである。利用主義の権化というべき改憲・軍拡推進発言の一部を拾ってみよう。

 「ウクライナの現状は憲法の問題点に多くの国民が気づくきっかけになった」「まず自助努力をしていくことだ。自ら国を守るために努力をしない国を助けてくれる国は存在しない」「(敵基地攻撃について)私は打撃力と言ってきたが、基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃するということも含むべきだ」

 このほかにも「核共有」の検討や、軍事費確保のための国債発行を訴えるなど、言いたい放題である。ロシアのプーチン大統領を「力の信奉者」と呼び、「織田信長に人権が通用しないのと同じだ」と言い放つ一幕もあった(4/21)。

 では、「人権が通用しない」プーチンにおもねる対ロシア外交を展開し、「君と僕は、同じ未来を見ている」と蜜月ぶりを誇ってきたのは誰なのか。安倍の辞書に「責任」や「反省」の文字はないらしい。

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 読売新聞の世論調査(4/1〜4/3実施)によると、防衛力の強化に「賛成」は64%で、「反対」27%を大きく上回った。戦争を現実の不安と感じる人が増えていることのあらわれだろう。しかし、岸田政権や安倍一派が熱心なのは「戦争を防ぐ」ことではない。連中がやりたいのは改憲・軍拡であり、戦争でカネ儲けをすることなのだ。  (M)

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