2022年05月06日 1722号

【読書室/フェンスとバリケード 福島と沖縄 抵抗するジャーナリズムの現場から/三浦英之・阿部岳共著 朝日新聞出版 1700円(税込1870円)/権力者が恐れるつながりを】

 著者の阿部は沖縄タイムスの基地問題担当記者を長年務め、三浦は朝日新聞記者として福島現地に張り付き原発事故被害を取材してきた。二人が結びついたのは、福島と沖縄がともに国家権力に犠牲を強いられ民衆の声が握りつぶされている共通点からであった。

 三浦は、今の大手メディアが権力と癒着し、発表報道に終始している現状を憂えていた。安倍首相が福島を訪れた2020年3月、同行記者団の会見に潜入し、「地元記者です。今でもアンダーコントロールと思っていますか」と質問をぶつけた。三浦は、安倍の「福島はアンダーコントロール」発言が、原発被害報道に蓋をかぶせ抑制していると感じていたのだ。

 阿部は、辺野古基地への自衛隊配備の情報をつかむ。在京他社の記者と共同取材し、確証を得て報道。内閣に激震が走り、菅首相から「共同使用の計画はない。今後も検討しない」の発言を引き出す。調査報道が権力を追いつめた瞬間である。

 三浦は、津波で幼い娘を亡くし遺骨を探すために大熊町に通い続けている木村紀夫を取材してきた。22年1月、三浦から木村を紹介された阿部は、沖縄戦の遺骨収集活動を続ける具志堅隆松を伴って、木村の遺骨探しに参加した。5年前に遺骨が発見された場所に到着してわずか20分後、具志堅は遺骨を発見した。「人と人のつながりが時には奇跡を生む」と阿部は感じた。

 権力による分断が、記者の権力批判へのためらいを生んでいる。しかし、だからこそ「手を伸ばそう。私たちはもっと、つながり会える。それこそが、権力者が最も恐れることなのだから」と、阿部は本書をむすんでいる。

  (N)
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