2022年05月13・20日 1723号

【IRカジノで大阪経済・財政は悪くなる/税金投入止めどなし/それでも推進 維新の欲望】

 大阪府全域でカジノの是非を問う住民投票直接請求運動が取り組まれている。そんな中、大阪府・市は4月27日、IR(統合型リゾート)カジノ事業者である大阪IR株式会社と共同作成したIRカジノ区域整備計画の認定を国土交通省に申請した。今一度、「地域振興、財政改善」を売り言葉にするIRカジノがいかに虚構に満ちたものであるか、確認しよう。

 「大阪経済が活性化する」「税収が増える」―カジノ誘致賛成者の主な理由だ。大阪維新の会、大阪府・市政がふりまく幻想が少なからず影響を与えている。しかしこれはイメージ操作に過ぎず、根拠は何もない。

 府・市の言い分は、建設費1兆8千億円は民間企業の投資、行政はカジノ利益からリターンをうけとれる。年間2千万人が来阪し、周辺観光など経済効果は年間1兆2千億円―これが維新の語る「カジノ効果」なのだが、いかにいい加減なものかを改めて見ておこう。

税金でカジノ誘致

 最大のウソは多額の税投入が隠されていることだ。IRカジノ施設を建設する夢洲(ゆめしま)は、廃棄物や浚渫(しゅんせつ)汚泥・建設残土の受け入れ地として造成された大阪市所有の人工島。造成地には建築の障害となる埋設物(揚水井戸等)や有害物質(ヒ素等)が混入している。軟弱な地盤は液状化が起きる。このままではIRカジノ施設の建設はできない。

 通常は、施設建設時に事業者が対策工事を行うのだが、松井一郎市長は「地主責任」として、その対策費約790億円(土壌汚染対策費360億円、液状化対策費410億円、地中埋設物撤去費20億円)を市が負担することを決めた。昨年6月の段階では、埋立事業担当の大阪港湾局は「当時の基準に従って埋め立てた土地であり、建築基準法上、造成主の責任は問えない」と市の負担を否定していた。たった1社しか応募がなかったカジノ事業者の要求を丸のみした松井市長の独断であることは明らかだ。

ただ同然で土地提供

 では土地の賃貸料はいくら入るのか。IRカジノが使う土地の面積は43・3f、20年後に7・2f拡張する予定だ。賃貸料は1平方bあたり月428円。年額にして約25億円。拡張後は約3・7億円増える。契約期間35年で総額約930億円を見込む。対策費790億円との差額140億円は起債の利子補填(ほてん)に消える。つまり、市はただ同然で50fの土地を提供するのである。

 だが、優遇策はこれだけではない。大阪港湾局が「大阪市大規模事業リスク管理会議」(第8回、2021年12月8日)に出した資料によれば、夢洲全体の埋立事業収支の計算には土壌汚染対策などに1578億円が計上されている。さらに、その他道路や鉄道、上下水道などの整備費も含めると2482億円を必要としている。これに対し、カジノ事業者のインフラ整備負担は202・5億円に過ぎない。

 夢洲の埋立事業は2076年になってはじめて、収益が上がる見込みが示された。いかに土地対策費負担(IRカジノのための借金)の影響が大きいかがわかる。本来、市が負担する必要がない費用を回収するには50年以上かかるのだ。

欲から出た「期待値」

 松井市長がいう「リターン」はどうか。カジノから府・市が得られる額は、カジノの粗利益(掛け金総額から払い戻し金総額を引いた額)4900億円の15%、740億円と入場料320億円の合計1060億円。これを府・市で折半する。市には年間530億円が入ることになる。



 この数字はカジノ事業者が設定した利益率から逆算した「期待値」に過ぎず、現実味はまったくない。

 いったい大阪カジノに何人がやってくるのか。

 計画ではIRには年間1987万人(国外から629万人)が来場。このうちカジノ利用者は国内外あわせ1610万人。客が「損」をする総額4900億円の55%2700億円は国内客。「カジノは外国の富裕層が対象」という触れ込みとはかなり様相が異なる。

 年間1610万人が4900億円の損をする想定とは、甲子園球場(収容人数4万7千人)を満席にするほどの人数が毎日ギャンブルに興じ、一人平均3万円以上負け続けることだ。

 しかしこの数字すら粉飾したもの。実際にはカジノ事業者は「客は全員日本人、その前提でプランニングを作っている」(3/24民主ネット大阪府議会議員団「大阪IRに賛成できない理由」)。こんな事態が起きるとは思えないが、仮にもそのような状態を作り出すことが維新のいう「大阪の成長」だとすれば、異常だというしかない。


悪影響は行政がカバー

 「リターン」のマイナス要因は他にもある。府・市とカジノ事業者が2月に結んだ基本協定では、国の認定後30日経過した日から60日以内にカジノ事業者が契約解除できることになっている。解除条件には「新型コロナウイルス感染症、観光需要の回復の見込み」や「土壌対策の適切な措置の実施」の他、「税務上の取り扱い、国際競争力・国際標準の確保」が上がっている。つまりカジノ税率(30%)の引き下げやカジノの床面積上限規制(3%)の緩和などが進展しなければ解除できることになる。

 どうしてもカジノ事業者を引き留めたい維新にとっては、土壌対策費の支出以外にも「リターン」の圧縮を迫られるということだ。

 その上、IRカジノの悪影響に対する行政負担増が考慮されていない。例えば一層増えるギャンブル依存者。「(仮称)大阪依存症センター」開設などの対策を示しているが、対策費は府市合わせて年間14億円に過ぎない。生活保護費など行政需要が高まることは考えていない。
 IRカジノは宿泊から買い物まで区域内に客を囲い込むよう考えられたものだ。周辺施設にはマイナス効果しか及ぼさない。近郊への観光需要など生まれない。地域経済を疲弊させ、地方財政を悪化させる―これがIRカジノの本当の姿だ。

住民投票でストップ

 カジノ解禁に反対意見を表明している大阪弁護士会は改めて、府・市のIRカジノ整備計画作成は、カジノ整備法第9条7項「公聴会の開催その他の住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない」との要件を満たしていないと指摘した(2/25)。コロナを口実に説明会11回の予定を8回で中止、公聴会はわずか4回で打ち切った。隠していた「税投入」が暴露され、当初の「税金は使わない」とした説明が根底から覆ったからだ。

 かつて「全国民を勝負師にするためにカジノ法案を」と放言した橋下徹(10年当時大阪府知事)。カジノは維新の欲望から始まった。勝ったもん勝ち≠ナはない地域づくりのためにもIRカジノを市民の力で止めよう。主権者の声を反映させる住民投票を実現しよう。 
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