2022年05月13・20日 1723号

【公立病院統廃合計画転換 コロナ禍 市民の声と運動の力 独法化ではなく公営化拡充こそ】

 政府は、公立病院の指針を改定し公立病院統廃合を撤回し方針転換した。コロナ禍の中での市民の声と運動の大きな成果だ。一方で、公立病院の地方独立行政法人(独法)化・民営化を加速する方針を打ち出している。今必要なのは自治体直営の公立病院の拡充だ。

コロナ対応は公立病院

 3月29日、総務省は「公立病院経営強化ガイドライン」を公表。その中で、「感染症拡大時に公立病院の果たす役割の重要性が改めて認識された」として「公立病院の経営を強化」と方針転換を明記。公立病院の統廃合に歯止めをかけたのだ。これは、コロナ感染拡大に対し公的医療対応を求める世論、医療現場の切実な声と闘い、そして7次にわたる中央省庁要請行動で政府に強く要求してきたZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)をはじめ市民の運動の極めて大きな成果だ。

 政府は、医療費削減のため、「公立病院改革ガイドライン」(2007年)「新公立病院改革ガイドライン」(15年)で「経営効率化」「再編、統廃合」「独法化・民営化」を打ち出す。さらに医療削減を進める構想である「地域医療構想」(18年)が始動。手段として424の公立・公的病院の再編統合リストが公表(19年)され、病院の統廃合が加速された。その結果、18年間で公立病院は1007から15%減の853に減少し、病床数は全体の15%に相当する約2万5千床も削減された(21年3月)。

 そうした中でも、全国に占める病床割合は13%しかない公立病院が確保したコロナ病床は全体の32%に上り、人工呼吸器を使った入院治療の約半数を担う時期もあった。感染症拡大時に公立病院の果たす役割の重要性が鮮明になり、現状を踏まえた自治体の対政府要望を医療現場や市民の闘いが規定したことが統廃合に歯止めをかける成果を生みだしたのだ。

 政府は、方針転換の一方、「経営強化」を旗印に地域医療再編によるダウンサイジングや独法化・民営化を加速する方針に力点を移した。


「経営強化」へ独法化

 自治体に対し、23年度までに「地域医療構想」と整合性を保った経営強化プランを策定し、27年度までに達成することを求めている。また「限られた医師・看護師等の医療資源を地域全体で最大限効率的に活用」として、基幹病院と位置付けた病院以外は、病床を削減、入院施設をなくし診療のみに限定し、医師等は基幹病院から派遣するなどの方針を示している。

 統廃合は求めないが、医師・看護師の増員や病院の新増設ではなく既存の「医療資源」を効率よく利用する医療費削減方針の強化と言える。さらに、対象期間中に経常黒字化する数値目標を設定させ、黒字化が難しい病院には、独法化・指定管理者制度、民営化などを求めている。

 これは自治体の病院運営への不当な介入に他ならない。公立病院は救急・小児・周産期・災害などの公共性の高い不採算医療を積極的に行っており、単独での黒字化は困難を伴う。自治体病院を存続発展させるための、国の抜本的な財政支援こそ必要なのだ。

 独法化された病院は、全国で88にのぼる(21年6月)。3月には、小池東京都政が都立・公社病院の独法化議案を強行可決した。7月には計14病院が一括して独法化される予定だ。

自治体直営に戻せ

 儲けを優先する独法化は、医療現場に「業績主義」を持ち込み、職員の労働条件の悪化や医療水準の低下をもたらし、市民の命を脅かす。大阪市では、医療提供体制が弱体化し、コロナ感染死亡者数は全国で突出している。滋賀県大津市では、27名の大量医師退職で分べんや外科手術ができなくなり救急医療も支障をきたすなど医療危機に陥っている。

 公立病院の統廃合を止めた闘いの力で、独法化・民営化などの医療費削減政策を許さず、独法化された病院を再度自治体直営に戻す闘いに取り組む必要がある。

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