2022年05月13・20日 1723号

【原発避難者訴訟 最高裁弁論 国の責任さらに明白に 断罪判決しかありえない】

 福島原発事故に伴う避難者らが国と東京電力に損害賠償を求めた4件の集団訴訟のうち、3件について、最高裁で弁論が開かれた(4/15 千葉訴訟、4/22群馬訴訟、4/25生業〈なりわい〉訴訟)。国の責任を一層明確にする主張で、断罪判決しかありえないことを改めてはっきりさせた。

何のための規制権限か

 避難者側は、5月16日に予定されている愛媛訴訟を加えた4訴訟弁護団で役割分担して臨んだという。

 争点は、国が技術基準適合命令の発令という規制権限を行使しなかったのは違法かどうか≠ナある。この4訴訟の弁論を踏まえて、早ければ6月中にも最高裁の判断が示される。その判決は地裁や高裁で係争中の同種の裁判にも影響を及ぼすため、最高裁弁論は重要な意味を持つ。

 4月15日の千葉訴訟では、(1)国には規制権限があったこと(2)予見可能性(国がとった対応に合理性がない)(3)結果回避可能性(津波対策を実施していれば事故は防げた)の3点に関して包括的な主張を行なった。

 国に規制権限があるのは当たり前のことだが、国は裁判で「(原発の)基本設計にかかる津波対策については技術基準適合命令を発する規制権限がなかった」と主張しているのだ。国の主張どおりだとすれば、ひとたび設置が許可されれば、原子炉が深刻な災害を引き起こすおそれが予見されても、規制当局は是正措置を命ずる規制権限を行使できないことになる。

 この規制権限の問題を中心に弁論を行なったのが4月22日の群馬訴訟だ。群馬訴訟は最高裁に上がった4件の高裁判決のうち唯一国の責任が否定されている。

 避難者側は、(1)電気事業法40条が経済産業大臣に技術基準適合命令を発令する権限を与えた趣旨・目的は「原子力災害が万が一にも起こらないようにするため」(伊方原発訴訟最高裁判決)であること(2)「電気事業法による技術基準を定める省令」は「…洪水、津波または高潮…等により損傷を受けるおそれがある場合は、防護施設の設置…その他の適切な措置を講じなければならない」と定めており、「津波」を含む自然現象によって原子炉施設が損傷を受けるおそれがない状態を維持するよう義務付けていたこと―を指摘した。「津波による損傷を受けるおそれ」がある場合には、国は技術基準適合命令を発令すべきだったのだ。

 ところが原判決(群馬訴訟の東京高裁判決)は、地震調査研究推進本部(注1)の「長期評価」(注2)に消極的な研究者の見解を並べて「長期評価」の信頼性を否定し、それを考慮する必要はないとして津波の予見可能性を否定した。

 だが「長期評価」は、当時の第一線の地震学者の集団的な議論を経て作成されたものであり、この専門性・集団性は「長期評価」の信頼性を基礎付ける極めて重要な客観的根拠だ。原判決は省令の解釈・適用を誤ったと言わざるを得ない。

事故を招いた権限不行使

 予見可能性についてより詳しい弁論を行なったのが4月25日の生業訴訟だ。

 弁論の中心は「国がとった措置に合理性がない」ことの立証に置かれた。当時原発の安全規制を担っていた原子力安全・保安院が、法令の趣旨・目的を踏まえた職務を「誠実にかつ適正に執行することを尽くしていたかどうかが厳格に司法審査されるべき」だからだ。

 2002年7月「長期評価」が公表されたあと、保安院は何をしたのか。同年8月5日に東電へのヒヤリングを実施し、「長期評価」に基づいて福島〜茨城沖での津波地震のシミュレーションをするよう求めた。ところが、東電の担当者(高尾氏)の「40分にわたる抵抗」に遭い、地震本部にどのような根拠で「長期評価」をまとめたのかを確認する指示にとどめたのだ。

 東電担当者は懇意の学者だけにメールで問い合わせた結果を基に、保安院には、「長期評価」を決定論≠ニして安全対策に盛り込まず確率論≠ノおいて取り扱いたいと伝えた。この方針の意味するところが「実質評価しないこと」(高尾氏)と理解できたはずの保安院は、あきれたことに東電の方針を了解したのだ。

 原判決(生業訴訟の仙台高裁判決)は保安院の対応について「規制当局に期待される役割を果たさなかった」と評した。こうした保安院の対応こそが、事故に至るまで東電が安全対策を一切とろうとしない事態をもたらしたのであり、その罪は深い。裁判での国の主張は、「何もしなかった」ことを後付けで合理化しようとするものにすぎない。

 残る愛媛訴訟の弁論(5/16)では、防潮堤や重要機器室・タービン建屋等の水密化により事故回避は可能だったこと(結果回避可能性)が論じられる。事実と道理に従えば、最高裁は国の責任を認める以外にない。それは、今も原発推進に固執する国策への打撃となる。世論と運動の力が決定的に問われる局面だ。

(注1)地震調査研究推進本部 阪神・淡路大震災(1995年1月)を契機として、地震調査研究を一元的に推進するため、国が同年7月に設置した機関。

(注2)長期評価 「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」という報告書(2002年7月31日)。三陸沖から房総沖にかけての海溝寄りの領域で、M8クラスの津波地震が発生する確率は、今後30年以内に20%程度、50年以内に30%とされた。

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