2022年05月13・20日 1723号

【明日をつくるなかまユニオン 当事者が追及した厚労省ヒアリングから】

無権利状態の不安定雇用労働者救済を 派遣法の抜本改正へ

 不当な「雇い止め」を受けた派遣労働者や契約社員。わずかばかりの貯えと失業給付で次の仕事を見つけないと、明日の生活さえ見えなくなってしまう「不安定雇用」の実態に政府は向き合っているのだろうか。

 不安定雇用労働者を「期間の定めのない雇用」に転換する受け皿として「多様な正社員の労働契約関係を明確にする」として厚生労働省は検討を進めている。

 しかし、実態は違う。不安定雇用労働者の多くは、どんなに理不尽な「雇い止め」にあっても、あきらめて次の「雇用」につながるために必死だ。「助けて」と手さえ上げられない労働者が労働行政の窓口にたどり着くこと自体、稀(まれ)なのだ。

 首都圏なかまユニオンは、こうした不安定雇用労働者の相談・組合加入を促し、団体交渉を取り組み、必要な場合は法違反に対して労働行政を通じた指導を求め、労働局や労働基準監督署への申告をサポートしながら、争議の解決を進めてきた。

 この間、大阪高裁で逆転勝利判決を勝ち取った東リ偽装請負事件原告やなかまユニオンとも連携し、国会議員の協力を得て厚労省とのヒアリングも行ってきた。4月15日のヒアリング(1721号既報)に参加した派遣労働者から報告と感想(別掲)が寄せられた。

 そこでも明らかにされているように、労働行政が労働法に基づいて労働者保護に努めるのではなく、「不安定雇用労働者」を切り捨てる企業の要求に沿った対応を行うのは本末転倒である。行政機関として公正な労働行政に改善させていくよう「派遣法」の抜本改正につなげていきたい。

(首都圏なかまユニオン委員長・伴幸生)

派遣労働者が労働局に申告する壁≠なくしてもらいたい

 私は、4月15日の厚労省ヒアリングに午後休を取得し参加した。私自身も派遣社員であった時期の「雇い止め」について、派遣先・元両社との団体交渉を取り組み、現在、組合として神奈川県労働委員会にあっせんを申し立てている。派遣当事者としての立場で組合の同行を得て、東京労働局需給調整課に派遣法違反で申告した際のことをヒアリングで訴えた。

 労働局に申告に出向き、相談係の職員に「雇い止め」に至る経緯や申告趣旨を資料・書面を提示して伝えたが、「派遣法違反に該当し得るような内容ではない」との回答が繰り返された。1時間ほどの要請に、漸(ようや)く職員が折れる形で指導官につながる実態だった。指導官にも内容を再度伝え直し、「派遣法違反の蓋然(がいぜん)性がある」として申告受理に至った。相談係による「窓口規制」という壁や「派遣法違反か指針違反か」による取り扱いの壁もある。

 その年の年末になって指導官から電話連絡が入ったが、「派遣法違反に該当し得るような内容がない」というもの。法違反ではない根拠も明示されないため、私は個人情報開示請求し、この申告に関する公文書の開示まで行った。しかし、開示された文書では、そもそも私の申告を情報提供扱い(申告者への報告等を必要としない相談と判断したとの意味)にして処理した記載内容が明らかになった。

 私は、こうした経緯をヒアリングに出席した厚労省の担当の方々に伝えた。回答は「不適切と言われても仕方ないような対応があったことは改める必要があり、本省からの指導を徹底したい」という当たり障りのないものだった。

 ヒアリングでは、厚労省が作成したマニュアルに、派遣労働者が相談・申告に出向く際に労働組合の同行を原則禁じるとしていたことも追及された。厚労省側は「派遣法49条の3項をその根拠とし、申告行為が労働者個人に与えられた権利であり、労働組合の同行を原則禁じている」と回答。

 私が申告に出向いた時のことを踏まえても、労働者単独であれば、もっと簡単にあしらわれたし私の意思を貫き通すことはできなかったと感じた。ただでさえ立場の弱い一労働者が、経済的負担もあまり考えず相手企業と公平な立場で争ったり、労働局への申告という正当な権利を適切に行使するためにも、首都圏なかまユニオンのような労働組合のサポートが必要不可欠であると思う。

(組合員・H)

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