2022年05月13・20日 1723号

【未来への責任(348)植民地支配清算 フランスと日本】

 4月24日の仏大統領選でエマニュエル・マクロンが当選した。極右のマリーヌ・ルペンでなかったことに安堵(あんど)したが、マクロンで良かったと思うことがまだある。

 それは、フランスで過去の植民地支配の清算が多少なりとも進むと思われるからだ。ルペンであれば全く期待できない。

 マクロンは前回の大統領選の最中、2017年2月にアルジェリアを訪問した際、「植民地支配はフランス史の一部であり、人道に対する罪だった」と述べた。このような発言は大統領選で必ずしも有利になる発言とは思われなかったが、彼はそう言った。

 大統領就任後には、「アルジェリア独立戦争の記憶をめぐる対立を解消することが自分の務め」と発言。「植民地支配とアルジェリア戦争の記憶」に関する調査を歴史家のバンジャマン・ストラに託した。

 ストラは2021年1月、報告書を提出した。この報告書では、▽歴史資料の共有▽アルジェリア人収容所をメモリアルに▽植民地時代についての教育強化▽アルジェリアでの核実験の廃棄物特定▽独立派弁護士アリ・ブーメンジェルの1957年暗殺を認める―等22項目の提言がされている。すべての事項を実現するのは簡単ではないだろうが、この報告書は脱植民地主義のプロセスを進める上で大きな意味をもつ。

 再選を果たしたマクロンはこれをどこまで具体化、実現していくか。そのゆくえが問われている。

 翻(ひるがえ)ってこの国はどうか。

 5月10日に韓国では尹錫悦(ユンソギョル)新政権が誕生した。尹は日韓関係改善に意欲を見せている。次期外交部長官候補の朴振(パクチン)は、日韓外相の関係づくりのため、音楽での「共演」まで提案した。曲目は『釜山(プサン)港に帰れ』だそうだ。

 しかし、そんなことで強制動員問題も「慰安婦」問題も解決しない。「釜山」というなら、2000年5月1日に三菱重工広島に動員された元徴用工らが起こした「釜山訴訟」のことを思い出してほしいものだ。この訴訟で原告は一審、二審では時効、別会社論等を理由に請求を棄却されたが、2012年5月24日に韓国大法院は下級審判決を破棄し差し戻す判決を出した。そして、同判決が起点となり、2018年10、11月、強制動員被害者の慰謝料請求権を認め、日本企業に賠償を命じる判決へと連なった。

 1965年時点では日本は植民地支配責任を認めず被害者に謝罪すらしなかった。これで済むはずがなく、村山談話が出され、日韓パートナーシップ宣言が出された。日本政府は改めて過去に真摯に向き合い問題解決を図るべきだ。せめてマクロンを見習ってはどうか。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

バンジャマン・ストラの報告書を紹介する『旧植民地を記憶する』(大嶋えり子著、吉田書店)
 
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