2022年05月13・20日 1723号

【《読書室特集》沖縄施政権返還50年/今も続く軍事植民地状態/基地固定化を望んだ日本政府】

 沖縄の施政権が日本に返還されてから5月15日で50年を迎える。だが、沖縄の人びとが渇望する「基地のない平和な島」はいまだ実現していない。それどころか、日米の軍事要塞としての機能は強化されている。今回の読書室特集は「沖縄返還協定」に込められた基地固定化の意図を読み解いていきたい。

復帰50年決議の偽り

 沖縄の日本復帰50年に関する決議が4月28日、衆議院本会議で可決された。経済振興を全面に打ち出した内容で、過去2回の衆院決議にあった米軍基地の「整理・縮小」の文言がない。また、「事件・事故の防止を含む米軍基地の負担軽減と諸課題の解決」を政府の「責務」としながら、米軍犯罪の元凶である日米地位協定の「改定・見直し」に踏み込まなかった。

 しかも、決議の採択を受け岸田文雄首相が「基地負担軽減の目に見える成果を着実に積み上げていく」と語ったその日に、政府は新基地の受け入れを沖縄に迫ってきた。名護市辺野古の米軍新基地建設に向けた防衛省の設計変更申請を承認するよう、国土交通相が沖縄県に是正の指示を出したのである。

強化された基地機能

 このような「民意無視・基地押しつけ」の仕打ちは、沖縄が今も日米の「軍事植民地」状態にあることを物語っている(詳しくは後述)。それは「沖縄返還」にあたり、日米両政府が望んだことであった。

 河原仁志著『沖縄50年の憂鬱』(1)は、日米の機密文書や証言を通して沖縄返還交渉を再検証した労作だ。著者は「返還の対象は沖縄なのに、その沖縄に新たな負担を担わせる。その倒錯こそが返還交渉の本質だったのではないでしょうか」と指摘する。

 米国政府が沖縄返還に応じた大きな動機は、沖縄の反基地・反米世論の高揚であった。これを鎮静化しなければ日米安保体制まで危うくなると判断したのである。米軍内部からも「反基地の民意が強い沖縄駐留にこだわるより、自由に行動できるグアムなどへ基地を移す方が国益上得策」との意見が出ていた。

 しかし、当時の佐藤栄作首相は米国との交渉で「早期」の返還と「核」の撤去を優先し、沖縄の人びとが求めた基地撤去や「本土並みに縮小」は議題にすらしなかった。彼が執着したのは総選挙や自民党総裁選のアピール材料に「沖縄返還」を使うことであり、内容は二の次であった。

 「核抜き」要求にしても、本土の反核世論を意識してのことであり、佐藤自身に非核へのこだわりがあったわけではない。「緊急時の核再持ち込み密約」の提案をあっさり了承したことがその証拠である。

 一方、外務・防衛官僚を中心とする“安保族”には「見捨てられ不安」があった。当時、米国は財政上の問題から海外基地の縮小を進めていた。これに慌てた“安保族”は沖縄を本土基地機能の「収容先」として差し出した。返還前の駆け込み移転である。在日米軍基地に占める沖縄の割合は復帰前の58・7%から70・3%に跳ね上がった。

 こうして、沖縄の基地群は縮小どころか機能強化された。日本政府の足元を見た米側は「基地の自由使用継続」を認めさせ、さらには在日米軍基地からの朝鮮半島や台湾への有事出撃も事実上容認させた。返還交渉を起点に日米軍事同盟の深化が進んだのである。

命や生活より軍事

 当事者である沖縄の代表を排除して行われた返還交渉。それは現在に至る基地固定化の原点となった。日本政府には「米軍に去られては困る」という観念が根底にあり、巨額の財政負担などで引き留めを図ってきた。現在の辺野古問題にもあてはまる構図だ。

 「琉球新報」論説委員長の宮城修は「実態として住民の命や生活より軍事が優先される〈アメリカ世(ゆー)〉の状態が続いている」と表現する(2)。〈アメリカ世〉とは、米国による占領・統治時代を指す沖縄の言葉だ。この〈アメリカ世〉の歴史を「本土」の人びとはあまりにも知らない。

 〈アメリカ世〉は過去の出来事ではない。現在の日本政府は戦争国家路線を突き進んでおり、それに反対する人びとを押さえ込むための弾圧法規(特定秘密保護法や共謀罪)を成立させた。それは、米国統治に異を唱える人物を「共産主義」のレッテルを貼って監視し、出版・表現の自由を制限した〈アメリカ世の沖縄〉を思わせる。

 前述の佐藤栄作首相は初めて沖縄を訪問した際(1965年8月)、「日本が沖縄に復帰すればいい」という趣旨の発言をしていた。「沖縄においては明治憲法がいまだ生きているので政府としては大部仕事がやり易くなる」というわけだ。現在に続く改憲勢力の本音であろう。

暴力と貧困の元凶

 林博史著『暴力と差別としての米軍基地』(3)は、米軍基地の世界的なネットワークの形成過程を世界各地の事例を取り上げて検証し、基地が植民地主義に支えられていること、特に基地設置は地域住民の迫害排除と表裏一体であったことを明らかにしている。

 ここでいう植民地主義とは「中核による周辺の支配と収奪の一形態」のことだ。「沖縄に対する米国政府や日本政府、あるいは日本本土社会の対応は、植民地主義そのものであろう」と著者は言う。そして、その構造は性暴力と密接につながっていると指摘する。

 今回の衆院決議は、沖縄の「低所得」や「子どもの貧困」を「沖縄の特殊事情に起因する課題」で片付けている。何たる言い草か。沖縄が抱える貧困や暴力の根底に、米軍基地の存在があることは明らかではないか(4)(5)。この問題は基地固定化の見返りとしての経済振興では解決しない。必要なのは軍事植民地状態の解消である。  (M)

(1)沖縄50年の憂鬱 新検証・対米返還交渉 河原仁志著 光文社新書 本体900円+税

(2)ドキュメント〈アメリカ世(ゆー)〉の沖縄 宮城修著 岩波新書 本体980円+税

(3)暴力と差別としての米軍基地 沖縄と植民地―基地形成史の共通性 林博史著 かもがわ出版 本体1700円+税

(4)夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま 琉球新報取材班著 朝日新聞出版 本体1400円+税

(5)海をあげる 上間陽子著 筑摩書房 本体1600円+税

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