2022年05月27日 1724号

【ウクライナ戦争は侵攻前に始まっていた/ロシア弱体化にむけた米情報戦略】

 ロシア軍のウクライナ侵攻から3か月。戦場の惨状とともに、戦闘拡大を予測する報道が続いている。マスコミが書く観測記事の根拠となっているのは大半が米国発の情報だ。だがその情報は「正しい」のか。

戦端は2月16日

 米政府はロシア軍侵攻の日をあてた。「米情報機関の優秀さ」の証明なのか。違う見方がある。スイス軍元戦略情報員ジャック・ボーがネット誌に投稿している。

 バイデン大統領が「数日のうちにロシアはウクライナを攻撃する」と言ったのは2月17日。実はその前日から、ドンバス地方に対するウクライナ軍の砲撃が劇的に増えている。停戦監視にあたる欧州安全保障協力機構(OSCE)の日報を見れば、一気に激しさを増したのが分かる。攻撃がピークとなる21日、プーチン大統領は保留していたドンバスの2つの「人民共和国」を承認、「自衛権行使」を理由に3日後の24日、侵攻を開始した。

 ボーは「戦争は16日に始まっていた。ウクライナは前年からその準備を進めていた」と指摘している。つまりバイデンはドンバス攻撃のエスカレートとそれが招く結果を見越していたのだ。プーチンがその誘いに乗らなければよかったのだが、「勝算あり」と踏んだ。両者は戦闘を避けようとしなかった点で、共犯である。


欧米メディアに不信

 ボーは2013年から5年間、NATO(北大西洋条約機構)のウクライナ軍立て直しプロジェクトの一員だった。「軍は幹部の腐敗で、国民の支持を失っていた。若者は徴兵に応じず、兵士不足を補うために外国人傭兵、極右過激派で構成」とウクライナ軍の実態を語っている。東部紛争の解決を公約したゼレンスキー大統領を「ロシアと和解すれば殺す」とメディアで公然と脅迫したのは軍の極右民族主義者だった。

 そんな経歴のボーがネット紙に投稿したのは、欧米メディアの報道があまりに事実を隠しているからだという。ロシア侵攻を誘ったウクライナによる攻撃の他、プーチン核発言の3日前にあったNATO側の核使用発言。ロシアが生物・化学兵器を17年に廃棄したことを伏せ、「使用の可能性」に言及していることなどだ。

 ボーは「プーチンを悪魔化し、ロシアを弱体化させるのが米戦略。公開情報を冷静に見ることが必要だ」と語っている(5/1ネット紙ポステルインタビュー)。

憎悪をあおる操作

 ウクライナ戦争は情報戦でもある。「5月9日の対独戦勝記念式典でプーチンは戦争を宣言し、総動員体制をひく可能性大」―戦闘拡大を「予測」したマスコミはプーチン演説が期待外れに終わると今度は「露、長期戦準備」と言い始めた。中央情報局(CIA)など16の情報機関を束ねているハインズ国家情報局長が発したものだ。「今後、事態はエスカレート」「(プーチンは)核兵器使用をちらつかせる」(5/10上院軍事委員会公聴会)。

 戦況を伝えるのは米軍需産業が設立したシンクタンク戦争研究所(ISW)。「ウクライナ軍は露軍を押し戻した」とロシア軍劣勢を伝える。戦闘拡大を望んでいるとしか思えない。

 バイデンは安全保障会議にCNNとブルームバーグ編集者を参加させた。反ロシア情報を提供し、できた原稿を大統領府の担当が「承認」することまでやっている(4/20SPUTNIK)。

 この安全保障会議には、ロシアの侵攻前から関係官庁、軍、情報機関から精鋭を集めた「タイガー・チーム」ができている。「ロシアの核・生物・化学兵器対応」と「軍事支援」を扱う2つのチームがある(『選択』5月号)。いかにプーチンを悪魔に仕立てるかの戦略チームともいえる。

 ロシアの発する情報だけが「ウソ」とはならない。だれが、どんな意図で流した情報なのか見極める必要がある。間違いのない見分け方は、ロシアへの憎悪をかき立て戦争継続をあおるような情報は疑ってかかる必要があるということだ。

   * * *

 バイデンは「武器貸与法」に署名した。一層ウクライナへの軍事援助をおこない、戦争を長期化させようとしている。これまでゼレンスキーが停戦交渉に前向きの姿勢を見せるたびに軍事援助を増やし引き戻してきた。

 ウクライナ戦争は武力に訴えてはならない<c宴汲崩壊させ、軍事費拡大のハードルをなくしてしまった。世界中で貧困格差を拡大してきたグローバル資本主義は、またも「人殺しと破壊」に莫大な利潤を見いだしているのだ。
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