2022年05月27日 1724号

【公的責任を放棄するコロナ対策分科会 公衆衛生や医療体制の抜本的強化が先だ】

 2022年4月27日、政府の第16回新型コロナウイルス感染症対策分科会は「今後の感染拡大時の対応の考え方について」の「たたき台」を発表した。政府対策本部対処方針(3/17)の結論「経済社会活動の正常化を図っていく」を受け、感染症対策の公的責任放棄へと誘導するものだ。医療問題研究会・山本英彦医師に批判を寄せてもらった。

 「たたき台」の骨子は、今まで行ってきたコロナ対策「@検査の拡充、A医療供給体制・保健所機能の強化・効率化、Bワクチン接種の促進、C基本的感染対策」を実施しても深刻な医療逼迫(ひっぱく)につながることはあり得るとし、社会経済活動を重視するのか感染阻止を重視するのか、そのどちらかとの組み合わせで行政主体の公衆衛生・医療上の体制を維持するのか地域の医療機関や在宅での診療を優先するかという4つの選択肢を提起したものである。

 私たち医療問題研究会は、在宅やクラスター発生施設内での死亡続出など、十分な公的責任が果たされていないところから多くの問題が起こっていると考える。分科会たたき台が導く、「地域医療機関や在宅に任せる」は、すなわち公衆衛生や医療体制強化の公的責任を事実上放棄する論議には大反対である。
 この観点に立って、@からBの対策について実際はどうだったかを検証する。

(@)検査は拡充されていない

 コロナ陽性者が多い時、日本のPCR検査等は少なく、体制は全く不十分だ。図1に示すように、必要なときにも韓国の8分の1しか検査ができていない。



 PCR等の検査は、感染拡大を防ぐためにも、早期管理治療体制をいち早く作り上げるためにも必要な検査であり、費用も含めて行政が責任を持った検査体制の拡充が必要である。

(A)医療供給体制・保健所機能強化の放棄は許されない

 保健所や医療供給体制の不備は特に昨年12月以降の第6波で顕著だ。▽救急車が搬送を断ってもよい▽保健所が濃厚接触者の判断をしない▽入院希望しても受け入れ先がない▽陽性者は各施設で看るようにさせる―など行政主導の責任放棄による医療崩壊が目立った。

 第6波で医療供給システムが立ちゆかなくなった結果、死亡例が全国で最も多くなった大阪府を分析する。

 12月17日から4月11日までに大阪府での新規陽性者は63万0937人。重症病棟入院者824人中、最初から重症(ICU収容、人工呼吸器やECMO〈エクモ〉装着)として入院療養した人は276人だ。最初は無症状や軽症で入院していた人や自宅療養や宿泊療養から重症化して入院した人は548人と約2倍。824人のうち197人が亡くなった。

 一方、軽症・無症状での入院療養や自宅・宿泊療養していて亡くなった人が1558人と死亡者の8割を占めた。急な重症化への観察体制などの不十分性が目立つ中、致死率は0・28%と同時期の全国致死率0・19%の1・5倍であり、大阪の死亡は突出している。

 この時期の大阪府の受け入れ病床の使用率、運用率を見よう。2月10日ころのピーク時には入院病棟は120%を超え、入院希望がありながら自宅待機せざるを得なかった人も6万4千人を超えていた。一方大阪府が80億円を投じた「大阪コロナ大規模医療・療育センター」(1千床)のベッド占床率はピーク時期でも10%に満たなかった。

 保健所定員削減、病院削減などを背景とした陽性者との密な連絡体制のなさ、陽性者の隔離先選定やリアルタイムでの重症化の把握の不十分さ、入院総病床の少なさなどが全国ワーストの死亡者につながっている。

 分科会が打ち出す在宅や民間機関への丸投げでなく、保健所や公的医療体制の抜本的拡充こそが必要だ。

(B) 効果低下が早く、副作用の強いワクチン頼みではいけない

 イスラエルでは、2021年8月1日からファイザーワクチンによる3回目のブースター接種が開始された。30%が接種した9月16日あたりから新規罹患(りかん)は減少するかに見えたが、接種が40%を超えた10月20日から再び増加、急増の中で、当局は12月下旬から60歳以上への4回目接種を決定した。それでも新規感染者は1月末には100万人あたり1万人を超え、5月やっと2千人台となった。3回目接種は流行を制御したと言えない。イスラエル自身の研究論文では、4回目のブースター接種についても接種者の罹患阻止効果は接種後2週がピークで未接種の2・1倍だが、その後効果は減り、8週までに効果がなくなってしまった。

 日本と韓国の3回目のブースター接種率、新規コロナ罹患率を比較しても、むしろ接種率の高い韓国の方が罹患率も高くなる傾向が見られた。韓国では接種率が60%を超えた2月23日時点でも新規患者は100万人あたり2350人を超え、以降急激な増加に歯止めがかからず、4月にやっと減少に転じた。データは、60%を超えるブースター接種にもかかわらずオミクロン変異株の流行は防げないことを示している(図2)。



 短時間にワクチンの有効性がなくなってしまうことが世界的に明らかになってきた中で、欧州医薬品安全庁とユーロ疾病予防管理センターは当面4回目接種を限定することを決めた。日本でも4月27日厚生労働省アドバイザリーボードでは、4回目接種は「60歳以上、18歳以上で基礎疾患を有する人に対する接種奨励」に限定し、努力義務規定は適用しないと提起された。

接種控えが世界の流れ

 コロナワクチンの副作用について、北欧では心筋炎が特に多いことでモデルナのワクチンは中止となった。

 日本でもファイザー、モデルナともにワクチン接種後の心筋炎報告は250人を超える。27歳のプロ野球選手の心筋炎死亡例が明らかとなったが、厚労省副反応部会はワクチンとの関係を認めていない。

 心筋炎以外にも日本では1500人を超える接種後死亡の報告がある。副反応部会はその99・7%を「因果関係は評価不能」(「因果関係あり」はゼロ、4/13資料)とするが、13歳の接種日入浴時の突然死報告など接種後2日以内の報告も多く「偶然の紛れ込み」で片づけるわけにはいかない。

 また、接種時の発熱、数日床に臥(ふ)すことが強いられる疲労感などは20〜30%に見られ、接種後の社会活動も制限される。過去のワクチンでは考えられない副作用の多さである。これだけでも、コロナ罹患の予後の良い小児、青年などへの接種は中止が求められる。

 導入時の「95%を超える感染阻止率」の宣伝から、「重症化は防ぐ」に変わったmRNAワクチン。有効性の低下が推奨者の調査でも予想外の速さで起こるため、接種を控える動きは世界の趨勢(すうせい)となりつつある。

医療拡充で命は救える

 私たちは、現在の新型コロナはインフルエンザに比べ死亡率も10〜100倍近く高く、後遺症や肺炎以外の症状もあり、高齢者や基礎疾患を持っている人にとっては重要な感染症として対応すべき疾患と考える。

 2年余りの経験と努力で、必要な医療保護のもとの隔離と迅速・的確な医療提供で命を救える可能性は増しており、まず保健所・公的医療施設を中心とした医療体制の抜本的拡充を図ることを優先しなければならない。PCR検査は拡大しなければならない。ワクチン一辺倒や強制ではなく、マスクや手洗いなどの基本的感染防護や、3密≠避けつつ体調の悪い時は休めて医療にかかれる職場・環境改善を進めることなどで乗り越えるべき疾患である。

 新型コロナ感染症対策分科会のたたき台は、公的責任を全く放棄しようという宣言にほかならないと考える。
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