2022年05月27日 1724号

【みんなができたてを食べられるように/全員制の中学校給食実現へ署名スタート/横浜市/藤原辰史さんが講演 給食で社会を設計し直す】

 横浜市民が、生徒の4割にしか届かないデリバリー型ではなく全員ができたてを食べられる中学校給食の実現を求めて署名活動を開始。5月5日、市内でスタート集会を開いた。

 署名は「横浜学校給食をよくする会」「横浜でも全員制の中学校給食が『いいね!』の会」が呼びかけ。山中竹春市長と鯉渕信也教育長宛てに「すべての中学校で、みんなができたてを食べられる給食を始めてください」と要望している。

 横浜市は2021年度から、政令市では最も遅く中学校給食を実施した。しかし、17年度以来の配達型業者弁当「ハマ弁」を「学校給食法上の給食」に位置づけたにすぎず、家庭弁当などとの選択制で、供給率は生徒の最大40%にとどまる。食中毒を防ぐため10℃以下で配送され、肉も魚も冷たいままだ。

 「小学校のように給食調理員さんが作り、全員で食べる温かい給食を」「選択制では家庭環境によって食べるものに差が出る」「地場産物の活用も難しく、食べ残しも多い」「成長期の中学生にとって給食は心身の発達を支え、将来の食生活を学ぶ大切なツール」―こうした市民の声が、全員制のおいしい中学校給食実現をめざす今回の署名活動につながった。

食べることで人間らしく

 集会では、京都大学人文科学研究所准教授で『給食の歴史』(岩波新書)『縁食論』(ミシマ社)などの著書がある藤原(ふじはら)辰史さんが「給食から社会を設計しなおす」と題して講演した。

 「人間は食べるところのものである」―19世紀ドイツの唯物論哲学者フォイエルバッハの言葉を藤原さんはまず紹介。「私たちは口から入れたものでしかできていない。食べることを軽視する人には『では、あなたから食を取り除きましょうか』と突きつけよう。食べる行為によって人間は人間らしくなる。給食は栄養補給だけではなく、文化を育て、私たちの人間関係をつくっていく基本的なことだ」と強調する。

 世界と日本の給食の歴史をたどりつつ、「給食は子どもたちを飢餓と貧困から救う方策として普及した。このことは今、家族のために弁当を作らなければならないヤングケアラーの問題とも関わってくる」「関東大震災の被災者の命を救ったのが学校給食。被災しなかった給食調理場が炊き出しの拠点になった」「貧しい子だけ、被災した子だけに与えることをしないのが給食の設計の温かさ」と指摘。「給食には教育をおもしろくする効果がある。近くの農家が運んでくる野菜を食べることが尊い教育になる。家庭科は週1時間ではなく1日1時間とし、諸学問の中心にすべきだ」と提唱した。

給食の歴史にかなう

 藤原さんは最後に「給食のおいしさは、自治体に住む人のプレッシャー、どれだけ熱心に取り組んだかで決まる。みなさんの運動は給食の歴史にかない、社会を設計し直す重要な試み」と激励するとともに、「選択制で、よりよい食を選べる力を身につけられる」との市教委の主張に対し「選択の自由は安定した衣食住が満たされて初めて保障される。食べるという行為は選択を自由にさせる土台だが、給食さえも選択させることはその土台を食い荒らす」と喝破した。

 署名集めは10月末までで、目標は10万筆。市の中期4か年計画原案が審議される横浜市会第4回定例会(11〜12月)を前に市長と教育長に提出する。

 集会参加者は終了後、桜木町駅前で宣伝行動。30分ほどで89筆の署名が集まった。「平和と民主主義をともにつくる会・かながわ」のメンバーもシール投票パネルを合わせて携えつつ、署名への協力を訴えた。



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