2022年05月27日 1724号

【人の痛みを放置しない判断を/愛媛訴訟 国の責任を問う/避難者4訴訟の最高裁弁論終結】

 福島原発事故の国の責任をただす4件の避難者訴訟の上告審弁論は、5月16日の愛媛訴訟をもって終結した。最高裁第2小法廷は6月にも、高裁段階で3対1と分かれた国の責任の有無について統一判断を示す。

 16日の弁論では、福島生業(なりわい)訴訟の南雲芳夫弁護士が「建屋の水密化の措置をとっていれば深刻な被害を回避できた可能性が高い」と国側の詭弁を一蹴。続いて愛媛訴訟原告代表の渡部寛志さんが時おり声を震わせながら意見陳述した。

 「私は南相馬市小高区に生まれ育ち、先祖代々の土地を耕してきた」「愛媛に避難したが、家族は崩壊。長女は『事故を何年も引きずり、苦しめられ、普通の生活に戻れない。生き地獄』と作文を残した」「私たちには〈現実〉と〈もしも〉の二つの時計がある。22歳男性原告の〈現実〉は『放射能うつると言われ、不登校に』『将来の夢なんか考えたことがない』『1歳下の弟が19歳で自殺』、〈もしも〉は『小中学校に普通に行けていれば、先のことも考えられた』『弟も死ぬことはなかった』」「原発事故は不可逆的でとり返しのつかない事態を生み、今もかけがえのないものを奪い続けている」

 渡部さんは裁判官に「一人でも多くの人が前を向いて歩き出せるよう、原発事故を引き起こした社会の『誤り』を見つけ出せるよう、痛みを受けた子どもたちの思いを挫かぬよう、人の痛みを放置させない判断をされるよう、心よりお願いする」と訴え、陳述を終えた。傍聴席からはすすり泣きが絶えなかった。

 愛媛訴訟の野垣康之弁護士は陳述の途中、原告の集まりで歌われたという唱歌『故郷(ふるさと)』を独唱。「最高裁判決が経済よりも命を重視する転換点、歴史に残る金字塔となることを切に期待する」と力を込めた。
 弁論には渡部さんの長女の明歩さん、二女の明理さんも参加。明歩さんは弁論後の記者会見で「避難生活“生き地獄”は今も変わっていない。原告席に座ったのは初めて。表情や姿勢だけでも裁判官に思いが届いていてほしい」と話した。

 弁論に先立ち、公正な判決を求める署名累計19万8109筆が提出された。



 5月24日の第7回弁論を前に13〜15日、「原発避難者の住宅追い出しを許さない会」が福島、南相馬、郡山をキャラバン行動。「県の職員に仮設住宅から『早く出て』と迫られた」と苦しい体験を重ね、冷酷な国・福島県への怒りをアピールする地元支援者。チラシ配布も700枚を超え、福島の人びとの心に確実に届いた(5月15日・郡山駅前)。

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