2022年06月03日 1725号

【沖縄・辺野古「黒を白」と言いくるめる政府/国地方係争処理委は事実に目を向けよ】

 沖縄の施政権返還50年の式典が行われた5月15日。その翌日は、政府が沖縄県に対し辺野古新基地建設変更設計不承認を撤回し、承認を迫った「是正指示」の期限だった。玉城デニー知事はこれに応じず、国の関与(承認指示)は不当だと国地方係争処理委員会(以下、処理委員会)に審査を申し立てることを表明した。

逃げられぬ処理委

 これまで処理委員会はどんな判断を示してきたのかを振り返っておく。

 辺野古新基地建設をめぐる国の「是正指示」(地方自治法第245条の7)について2件の事例がある。2016年国交大臣が「承認取り消しの取り消し(指示)」を行ったことに翁長雄志知事(当時)は国の関与を取り消すべきと審査を申し出た。この時処理委員会は判断を示さず、「国、県の主張する『公益』に隔たりがある。協議せよ」と逃げた。

 20年の農林水産大臣が行ったサンゴ移植許可「是正指示」については、「違法でない」と政府の言い分を認めた。県が審査を引き延ばし許可を出さないのは「違法、不適切かつ公益を害する」と農水大臣の主張を追認した。

 他に玉城デニー知事が行った審査申出が3件あるが、いずれも行政不服審査にかかる国交大臣裁決を問題にしたもので、処理委員会は「国の関与にあたらず、審査対象外」として却下してきた。今回審査対象となるのは地方自治法の「是正指示」であり、「審査対象外」と逃げることはできない。

変更不承認は正当

 では何が争点となるのか。埋め立て工事は辺野古浜の浅瀬は陸地化されたが、工事の8割を占める大浦湾側は当初の地盤条件と大きく異なったため大幅な設計変更が必要となった。その変更した設計について改めて知事から公有水面埋立法(公水法)の承認を得なければ工事はできない。

 審査にあたった県は、埋め立て予定地の最も深い所にある軟弱地盤の調査がされていないこと、ジュゴンやサンゴなど海洋環境に悪影響が及んでいることなどいくつかの問題点を指摘したが、沖縄防衛局は技術的裏付けをもった回答ができなかった。知事はこれらを理由に変更設計を不承認とした。公水法の承認要件である構造物の安全性、環境保全を満たしていない以上、知事が承認しなかったのは当然だ。

 しかし、公水法を所管する国交大臣はこともあろうに、全くでたらめな変更設計を承認せよと知事に迫ったのだ。重大な欠陥があるにもかかわらず強引に工事を推し進めようとしている。「是正指示」は設計の正しさを示せず、ただ「黒を白にせよ」と沖縄県を脅しつけているのだ。

推測で安全確認

 大臣が県に対し「是正指示」ができるのは「法令の規定に違反していると認めるとき」または「著しく適性を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるとき」に限られる。

 「法令違反」については、国は県の判断が公水法承認基準にどう反しているのか示さなければならない。問題は技術的根拠がないことだ。地盤調査もせず推測で構造物の安全性を認めろと国交大臣が主張するなど異常としか言いようがない。全国の自治体が技術基準を守るよう助言する立場にある国交省が沖縄県だけ目をつぶれというわけだ。これを認めるわけにはいかない。

 県の判断は「不適切かつ公益を害する」のか。国は工事を遅らせる行為は「世界一危険な普天間基地移設を遅らせ、公益に反する」と主張してきた。「辺野古が唯一の解決策」と固執し、「世界一危険」な状態を放置してきたのは国だ。普天間基地は即時閉鎖すればよいだけだ。取り返しのつかない環境破壊とどちらが公益かと秤(はかり)にかけるようなものではない。

不当関与に勧告を

 国と地方自治体は対等な関係にあるとした地方自治法改定から22年を経たが、実現には程遠い。せめて、処理委員会は逃げずに国の不当な関与を取り消す勧告をすべきだ。国と地方自治体の対等な関係は、政府に忖度(そんたく)することなく、事実に向き合うだけでよい。

 沖縄は地方自治の本旨である住民自治、住民の意思が国家によって踏みにじられてきた。「国には国の、沖縄には沖縄の民主主義がある」と暴言を吐いた防衛大臣さえいた。施政権返還時に政府が掲げた「核抜き本土並み」はまやかしだった。米軍基地は「本土並み」に削減されると期待させながら、逆に「本土」から移設され、さらに増えた。

 そして今、新たな米軍基地建設が行われている。しかも、日米共同使用をめざし日本政府が完成への執念を燃やしている。新基地建設阻止はまさに全国の市民が主体的に闘うべき課題だ。

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