2022年06月03日 1725号

【知床遊覧船事故問題/安全抜きの儲け優先を放置 国交省の責任は重大だ】

 4月23日、乗客など26人の乗った遊覧船「KAZU I」(カズワン)が北海道・知床半島沖で沈没した事故は、発生から1か月経過した今も、行方不明者の捜索が続く。安全無視のずさんな管理を続けた運行事業者に最大の責任があることはもちろんだが、事故の背景に国土交通省の無責任ぶりも見える。


無謀な出航とずさん管理

 「これから天気が荒れる予報だが、本当に出航するのか」。運行事業者「知床遊覧船」の桂田精一社長は、船長や他の観光船事業者の懸念を押し切り出航させた。当日は地元漁業者も出漁を見合わせたほどの荒天になった。無謀な出航だ。

 事故直後から、知床遊覧船の違法かつ全くずさんな運行管理の実態が明らかになった。(1)経験豊富な船長を解雇し操船未経験者を後任にしたこと(2)船体の亀裂をきちんと修理しないまま今シーズンの運行に入っていたこと(3)波高を測定せず毎日同じ数値を記載していたこと(4)故障した船舶無線を修理せずアマチュア無線を連絡手段としていたこと―等々である。

 (1)は、船長の要件を操船経験3年以上とした海上運送法に違反する。(2)は船舶安全法違反の疑いがある。(4)についても、アマチュア無線の用途を趣味用に限定、人命救助の場合を除いて業務上の使用を禁じた電波法に違反する。こうした何重もの違法行為の末に事故を起こした知床遊覧船に釈明の余地はない。

違法放置した国交省

 しかし、これを単なる利益優先、安全軽視の知床遊覧船に特有のケースと片付けていいのか。

 そもそも、船舶安全法は1933年制定、カタカナ書きの古い法律だ。国交省には「船舶検査官」という専門職員がいるが、驚くことに、20トンに満たない小型船舶は船舶検査官の検査を受けない。国交省認可の「日本小型船舶検査機構」が検査を代行する。「KAZU I」は19トンであり、国の直接検査を逃れるためであることは明らかだ。

 日本小型船舶検査機構は、GPSなどの機器が故障しているのに「運航ルート上に圏外の区域はない」との知床遊覧船側の自己申告で携帯電話を連絡手段として認めるなど、実質的な検査を怠っていた。日本小型船舶検査機構の現理事長、業務担当理事の2人は国交省の天下りである。

 船舶安全法違反の罰則も最大で罰金50万円。「壊れた船体や機器の修理に高額をかけるより罰金を払った方が安い」と考える悪徳事業者が現れて当然で、罰則として機能していない。

 「KAZU I」は昨年6月にも座礁事故を起こしている。抜本的安全対策を取らせる機会は何度もあったのに国交省は放置した。

 安全のため運航を中止すべき状況で強行し事故に至った経緯はJR尼崎事故を思わせる。

コロナ禍の影響も

 長引くコロナ禍で密集が敬遠された結果、観光目的のものを含め公共交通機関はどこも経営が厳しさを増しており、最大手のJRですら公然とローカル線切り捨てを表明している。当座の資金確保のため、悪天候でも運航を優先しようとの衝動にかられる零細観光事業者の苦しい経済事情も見える。コロナ後を見据え、公共交通事業者を救済する経済政策も必要だ。

 国交省の責任を追及し、公共交通機関の安全・安定運航確保のための措置を求めなければならない。

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