2022年06月03日 1725号

【未来への責任(349)「歴史否定」 あらわにする日本政府】

 2015年にユネスコ世界遺産に登録された軍艦島を含む「明治産業革命遺産」構成資産の多くは戦時中、朝鮮人・中国人・連合軍捕虜の強制労働が行われた過去を持つ。韓国政府は世界文化遺産としてふさわしくないと登録に反対し、強制動員真相究明ネットワークも強制連行・強制労働の歴史の記述を盛り込むことを求めて日本政府や世界遺産委員国へ働きかけた。

 最終的には日本政府が「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」ことを約束してようやく登録が承認された。

 ところが、2020年に東京に開設された産業遺産情報センターでは「強制労働も朝鮮人差別もなかった」と証言する軍艦島元島民のビデオだけが流され、被害者の証言は一人も展示されなかった。そこで昨年7月に開催された第44回ユネスコ世界遺産委員会は、日本政府が約束を守っていないことは極めて遺憾であるとして12月1日までに展示の改善の報告書提出と「関係者との対話」を促す決議をあげた。

 一方、同じく戦時中朝鮮人強制労働の現場であった「佐渡島(さど)の金山」の場合は、世界遺産登録の作業指針に「関係国との合意」が盛り込まれたため、申請は難しいと判断した岸田政権は当初慎重な姿勢を示していた。しかし、高市、安倍らが申請を見送るのは「国家の名誉に関わる事態」と突き上げる中、登録申請を決定。登録推進のために内閣府にNHKが「歴史戦チーム」と報道した「世界遺産登録等に向けたタスクフォース」が設置された。

 この2つの産業遺産の問題を通じて明らかになったのは、今の日本政府の「歴史否定」の姿勢である。佐渡鉱山の朝鮮人強制連行は「韓国独自の主張」であり認められないと公言し、数多くの資料や研究によって歴史的事実として明らかにされている強制連行・強制労働が「なかった」と言い切ったのである。

 現在、ロシアが世界遺産委員会の議長国を務めており、ウクライナ侵攻により来年の世界遺産委員会の開催は延期された。佐渡鉱山の登録が今後どのように進んでいくかは見通せないが、明治産業革命遺産に係る産業遺産情報センターの展示内容の改善については今年中にユネスコへ報告しなければならない。

 強制動員真相究明ネットワークはこれまでも日本政府へ様々働きかけを行ってきたが、今回「関係者」として展示内容の改善に向けた対話に応じるよう日本政府に対して取り組みを進めている。

(強制動員真相究明ネットワーク 中田光信)

 
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