2022年06月10日 1726号

【バイデン米大統領来日の目的/権益争奪 対中国包囲網の強化はかる/軍事費倍増を国際公約にした日本】

 米大統領ジョー・バイデンが韓国、日本を訪問。あわせてクワッド(日・米・インド・オーストラリア)首脳会談を行った。その目的は、インド太平洋地域における対中国包囲網の強化にあった。ウクライナ戦争でロシアを弱体化させるその一方で、アジアにおいて中国の影響力を抑え込む狙いだ。日本政府はこの機に、米軍との一体化を前面に打ち出し軍事大国化へ一段と加速するつもりだ。今ほど軍縮、基地撤去の声が必要な時はない。戦争を当たり前にしてはならない。

米国支配 脱する中国

 米政府の安全保障政策は同盟国と共に軍事・非軍事力を結集する統合抑止により中国、ロシアを抑え込むことだ。ただ、中国とロシアは同列ではない。ウクライナ侵攻後の3月末、国防総省が連邦議会に提出した国家防衛戦略について「欧州でのロシアの脅威より、インド太平洋における中国の脅威を優先する」(キャスリーン・ヒックス国防副長官)と言っている。主敵は中国。バイデンの訪問はこの戦略をさらに一歩進めるためだった。

 なぜ中国を目の敵にするのか。中国の経済成長が米国の経済支配を脅かしているからだ。2030年には中国のGDPは米国を上回るとの予測もある。



 東南アジア諸国(ASEAN)との関係を見てみる。ASEAN10か国の輸出入を合わせた貿易額を見ると、ここ10年間で米国のシェアが2ポイントしか増えていないのに、中国は7・4ポイント増。金額では2・2倍となった(米国との貿易額の1・7倍)。



 中国が提唱したアジアインフラ投資銀行(14年発足)は既に100を超える国が参加(日米不参加)。日米が主要な出資国であるアジア開発銀行(1966年発足、67か国・地域)をしのいでいる。中国の長期計画「中国標準2035」は、あらゆる分野で米国の支配から脱し、中国システムを確立することをめざしている。たとえばドルの国際決済システムSWIFTに対抗し人民元決済システムCIPSを構築した。測位衛星を使った位置情報システムでは中国のBDSは米国のGPSを上回る。

 これが米国が中国を敵視する本当の理由だ。

中国はずしのIPEF

 バイデンはまず韓国を訪問(5/21)。新政権の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と会談した。韓国では米韓軍事同盟を非軍事分野にまで拡げ、幅広い連携を確認。米主導の経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」への協力を取り付けた。IPEFは対中国抑え込みの仕掛けだ。中国を上回る半導体製造国の韓国は、中国と対峙するには欠かせない国なのだ。





 バイデンは、アジア諸国が参加する経済協力はいくつもある中で、中国を外す枠組みがほしかった。中国排除を狙ったTPP(環太平洋パートナーシップ)協定に中国が参加を申請した一方、米国はトランプ前政権が離脱した。今年1月発効したRCEP(地域的な包括的経済連携)協定は中国主導。米国は入っていない。世界のGDPの6割を占めるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)は米国だけでなく、中国、ロシアなどもメンバーであり、主導権はとれない。5月21日開催されたAPEC貿易相会議で、ロシア非難の共同声明を採択できなかった。

 バイデンはIPEFについて「参加国の公正な経済成長を助けていく」と表明。中国の融資がインフラ使用権を担保にとるなど不評なことをつき離反を促した。関税引き下げを議題としないIPEF。4つの柱(▽サプライチェーンの強靭化▽クリーンエネルギー・脱炭素化、インフラ▽税制・腐敗防止▽公正で強靭な貿易)を掲げ、まず「デジタル財・サービスの貿易を管理する新しいルールから始める」としている。つまり、サプライチェーンやデジタル活用ルールから中国を排除する親米グループ囲いこみの枠組みということだ。

核の「拡大抑止力」

 日本政府はIPEF発足に全面的に協力した。直前に開催されたAPEC貿易相会合で萩生田光一経済産業相がASEAN諸国を勧誘した。中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、米国と同じように経済的敵対はできないが、「中国脅威」を軍事費拡大に最大限利用しているため、敵対構図を弱めるわけにはいかない事情がある。

 岸田文雄首相はバイデンに「防衛力を抜本的に強化し、防衛費の相当な増額を確保する」と宣言した。好戦勢力のたわごとだった軍事費倍増を国際公約にしてしまった。さらに注目すべきはこの時期に「核による拡大抑止力」を確認し合ったことだ。

 ウクライナ戦争でウラジーミル・プーチン大統領が「核抑止」に言及したことを機に、公然と核兵器の使用が語られるようになった。米国は「ロシアは追い込まれたら核を使う」と予測をしながら「負けを認めるまで軍事支援する」と公言する。プーチンに核を使わせたいとしか思えない言い方だ。

 米国はNATO(北大西洋条約機構)に配備した戦術核兵器を最新のB61―12に置き換える。命中精度を格段に高め、低出力化できたことで「使える核兵器」といわれるものだ。F35からの投下実験も済ませている。

 米核戦略に全面的に依存する「拡大抑止力」。米軍と一体化を進める自衛隊にも「核部隊」が必要と言い出しかねない。岸田が「あらゆる選択肢を排除しない」とし、「核保有も憲法に反しない」との立場を繰り返し表明しているからだ。「歴史上かつてないほど強固で深いパートナーシップを確認」(5/23日米共同声明)は、中国・ロシア対米の「核新冷戦」の最前線に日本も並ぶことを表明したものといえる。

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 グローバル資本主義はソ連邦崩壊後も「新たな敵」をつくり出しながら、軍事力を維持・強化してきた。「対テロ戦争」から今「中国・ロシア」を敵視する「新冷戦」体制をつくろうとしている。戦争、挑発をやめろ。「敵対」ではなく「平和外交」に徹せよ。国際的な市民の連帯を築こう。
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