2022年06月10日 1726号

【読書室/学問と政治 学術会議任命拒否問題とは何か/芦名定道・小沢隆一・宇野重規・加藤陽子・岡田正則・松宮孝明共著/岩波新書 840円(税込924円)/民主主義社会の根幹への攻撃】

 著者の6人は2020年10月、菅前首相によって学術会議会員への任命を拒否された。本書は、この任命拒否がどれほど不当であるか、そして、政権の狙いは何であったかを明らかにしている。

 「この問題は現在進行形である」。本書を出版した岩波書店編集部は強調する。事態の発覚から1年半を経て、メディア等での議論は少なくなりつつあるが、編集部が記すように「政治決定をめぐる経緯や責任の所在は依然として明らかにされておらず、情報公開請求については現在も継続中である。事実はいまだ黒く塗りつぶされている」。

 この問題は、権力と法、政治と専門家という民主主義社会の根幹をなす価値観に深くかかわるものだ。

 菅内閣は「任命権者には裁量権がある」としていたが、これは明らかに違憲、違法なのだ。学術会議から内閣に推薦される名簿は審査を前提としないものであり、内閣の任命行為はあくまでも形式的なものであった。今回、あえて6人を選び、任命を拒否した狙いは何であったのか。

 そのことを考える上で、日本学術会議の設立趣旨を踏まえずにはいられない。戦前、学問の自由は奪われ、学術は国家権力に支配、従属させられた。それが戦争の惨禍を招いたという反省に立って、他の国家権力と独立した学術機関を国に置き、学問の自由を学者・研究者の自律によって実現しようとしたのである。

 菅政権は、安保法制(戦争法)や秘密保護法に反対した学者6人を外すだけではなく、学術会議そのものを国家機関から切り離し役割を奪おうとしたのだ。本書はこのことが持つ重大な意味を伝える。  (N)
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