2022年06月17日 1727号

【未来への責任(350) 韓国新政権と強制動員問題の解決】

 5月10日、韓国で尹錫悦(ユンソンニョル)政権が発足した。これを前後して、日韓関係改善に向けての動きが足早に進行している。

 尹大統領就任式出席のため訪韓した林芳文外相は5月9日、韓国の朴振(パクチン)外交部長官と会談し、その中で「懸案の早期解決に向け、スピード感をもって協議していくこと」を確認した。両外相は、日韓の「関係改善は待ったなし」との認識で一致したという。

 そして、6月19日から朴外交部長官が来日し、首脳会談実現に向け、元徴用工訴訟などの懸案の解決を目指して議論すると報道されている。

 2018年10月30日の韓国大法院判決以降悪化の一途をたどってきた日韓関係がここに来て転換していくのはほぼ確実だ。そのためには最大の懸案である強制動員問題の解決が図られなければならない。両政府ともその認識は一致している。これ自体は歓迎すべきことだが、問題はそれがどう解決されるか、である。

 尹大統領は、大統領選の過程では、徴用工問題、貿易規制など懸案事項の「グランドバーゲン(一括処理)」を提起していた。しかし、強制動員被害者の人権回復という視点を欠落させたやり方では被害者・市民から理解されるはずがない。

 他方、日本政府が「1965年で解決済み」論に固執し、「ボールは韓国側にある」との態度をとり続ける限り解決には至らない。

 「事の発端は日本による植民地支配にある。歴史問題の解決には被害者である当事者が納得する救済が必要だ。日本政府は被害者の立場に立った対応で政府間の溝を埋めるべきだ」(3月13日付琉球新報社説)。日本政府は、今こそ真摯に過去に向き合うべきである。

 5月24日に開催された、強制動員問題解決と過去清算のための共同行動主催の院内集会で報告された太田修氏(同志社大学教授)は、日韓会談文書の中に注目すべき文書があることを紹介した。

 1953年3月25日に外務省が作成した「財産及び請求権処理に関する特別取極(案)」の「第二案」である。「特別取極(案)」の第一条では、財産・請求権について相互放棄を規定していた。ところが「第二案」の第三条では、「前記第一条の規定にかかわらず」(1)軍隊構成員であった韓国人の給与、軍事郵便貯金及び戦傷病者、戦没者への補償(2)国家総動員法に基いて徴用、協力を命ぜられた労務者、軍要請により戦斗に参加した韓人の給与及び戦傷病者,戦没者への補償、等については、「日本国の法令」に従って支払うと規定していた、というものだ。

 この案は結局は日の目を見なかった。日韓両政府は「経済協力」方式で決着をした。しかし、それが真の解決を覆い隠し、今に至る禍根を残したのである。

 強制動員問題の解決を言うのであれば、このような「取極」案を起案していた事実を思い起こすべきだろう。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)  
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