2022年06月17日 1727号

【北海道泊原発運転差し止め判決/北電の安全無視を断罪/再稼働論強まる中で画期的】

 北海道内はじめ、国内外の原告1201人が北海道電力を相手取って起こしていた「泊(とまり)原発廃炉訴訟」で札幌地裁(谷口哲也裁判長)は5月31日、泊原発1〜3号機の全基の運転差し止めを命じた。


「遅延戦術」許さず

 福島原発事故後に全国で起こされた差し止め訴訟では、基準地震動や津波、火山噴火が原発にもたらす影響が争われてきた。いくつかの裁判で運転差し止めが認められる一方、原子力規制委員会が審査中の原発に関しては、審査結果を待つとして審理を進めない裁判所も多く、長期化している。

 泊原発廃炉訴訟も2011年11月の提訴以来、すでに地裁段階で11年経過。北電は、泊原発直下を走るF―1断層が「活断層ではない」とする規制委の判断が示されたことを受け、規制委に提出した資料を今年2月に追加提出したいと主張していたが、谷口裁判長がそれを待たず、1月に結審を告げていた。

 谷口裁判長は判決で、これだけの時間が経過してもなお「被告(北電)が、原子力規制委員会の適合性審査をも踏まえながら行っている主張立証を終える時期の見通しが立たず……審理を継続することは適当でないと思料し、判決をする」と審理を打ち切った理由を述べた。電力会社を勝たせるためにいつまでも裁判を引き延ばすことは、原告に無用な負担を強いるものだとして電力会社の「遅延戦術」を明確に否定した。

津波対策だけで「失格」

 一般に企業犯罪の裁判では、情報を持たない住民側に被害の立証責任が課せられるなど理不尽な点が多いが、札幌地裁は、豊富な資料を持つ電力会社側が安全性を証明する義務を負うとした伊方原発訴訟の最高裁判例に基づき、北電が安全性を立証すべきとした。

 判決が着目したのは、津波対策のための防潮堤を北電が現在、建替工事のため取り壊している点だ。北電が建設予定の新たな防潮堤は、高さを想定津波以上である16・5メートルとすること以外、構造等を含めすべて未定である。規制委、原告住民が指摘していた沈下の可能性も不明というずさんなものだった。札幌地裁はこうした点を重視。泊原発の運転は認められないと結論づけた。

使用済燃料撤去問題

 一方、原告住民側が求めていた廃炉及び使用済み核燃料の泊原発構外への撤去を札幌地裁は棄却した。

 「(使用済み核燃料の撤去が)直ちに原告らの人格権侵害のおそれを除去することができるものではなく、適切な撤去先及び保管の条件が満たされない場合には、撤去により、かえって撤去先の周辺住民に人格権侵害のおそれが生じる可能性すら認められる」

 使用済み核燃料の泊原発からの撤去を棄却した理由を判決文はこのように述べている。場所と手法次第では、持ち出し先の住民が被害を受けるおそれがあるということだ。判決は「被告が使用済燃料を安全かつ適切に保管」する以外にないとした。

 使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物(いわゆる核のごみ)について、国が推進する地層処分を中止し、地上での暫定(ざんてい)保管に切り替えるよう求めた日本学術会議の提言(2012年)を司法が現状では最も適切と認めたことになる。

「国策」を二重に否定

 「岩内原発問題研究会」を作り、道内で最も長く泊原発反対運動に携わってきた斎藤武一原告団長(泊原発地元・岩内町在住)は判決後の記者会見で「素直に喜びたい。原発のない北海道を実現する重要な第一歩だ」と判決を評価した。

 原告の1人、小野有五・北海道大学名誉教授(地質学)は「私たちの主張を裁判所に認めてもらえたと考えている。10年経っても原子力規制委員会から要求された審査資料さえ揃えられない北電の当事者能力の無さに裁判所がしびれを切らした結果だ」と述べた。

 さらに、本紙の取材に対し、小野さんは重大な事実を打ち明ける。「使用済み核燃料の撤去が棄却されたのは形式上、原告敗訴です。しかし、使用済み核燃料はどこに持って行っても危険だから移動してはならないと認定されました。この判決が確定すれば、寿都(すっつ)、神恵内(かもえない)への核のごみの持ち込みもできなくなります」

 核のごみ最終処分場候補地に応募した北海道寿都町、神恵内村では、NUMO(原子力発電環境整備機構)による文献調査が年内にも終わると見込まれている。札幌地裁判決は、歴代自民党政権が推進する原発再稼働、核ごみ押しつけという2つの国策を同時に破たんさせたのだ。

 ウクライナ戦争によるエネルギー危機により原発再稼働論が勢いを増す情勢の中でこの判決が出されたことも重要である。その意義を改めて確認したい。



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