2022年06月17日 1727号

【読書室/日米地位協定の現場を行く ―「基地のある街」の現実/山本章子・宮城裕也著 岩波新書 900円(税込990円)/住民生活と相容れない軍隊の論理】

 共著者の宮城裕也は沖縄県宜野湾市の出身。高校2年生の夏休み、米軍普天間基地に隣接する沖縄国際大学に輸送ヘリが墜落するのを目撃する。彼の目の前で米兵が規制線を張り、民間人が立ち入らないように威圧していた。地元の警察ですら墜落場所に入ることができなかった。

 この事故が「日米地位協の原体験」だったと宮城は言う。その後、彼は新聞記者となり、全国の基地取材を進めた。「基地との共存共栄」を掲げ「基地ありきの街づくり」を進める自治体に違和感を抱いたこともあったが、取材を重ねるうちに沖縄との共通点が見えてきたという。

 日米地位協定とは、日本に駐留する米軍の「特権」について取り決めた日米間の合意である。その本旨は軍事活動の自由を保障することであり、米軍の事件・事故や環境破壊がどんなに住民を苦しめても、救済を阻む壁となってきた。

 日米地位協定の問題に詳しい共著者の山本章子(琉球大学准教授)は、基地問題の本質は「安全保障」ではないと指摘する。「(基地被害の)解決方法が、中央から周辺へ、人口の多い地域から少ない地域へと訓練場所を移すことでしかない。米軍の自由な訓練を許している日米地位協定には一切手をつけず、より少数の住民の犠牲で解決を図るという、政府の小手先のやり方こそが問題の本質なのである」と。

 地元住民の頭ごなしに物事を決め、民意を置き去りにする。補助金等を大盤振る舞いすることで、基地に依存するように仕向ける―。「基地のある街」で政府がしてきたことは、どこも同じだ。それは原発の問題とよく似ている。  (O)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS