2022年06月24日 1728号

【参院選の焦点 岸田でいいのか/軍拡・改憲に突き進む危険な政権/ストップできるのは市民の投票】

 7月の参議院選挙に向け各政党は選挙モードに入った。マスコミは岸田政権の高い支持率をもとに自民圧勝の予測記事を書いている。前回の参院選の投票率は50%をきっている。今一度問い直そう。岸田でいいのか。搾取される労働者も資本家と同じ1票の権利が行使できるのが選挙だ。政治を変えるために選挙はある。この機会を生かそう。

自民の選挙公約 軍事費倍増

 岸田政権の支持率は依然高い。マスコミの調査では「政権発足後最高 支持率59%」(5/23朝日)、「64%、3回連続上昇」(6/5読売)。なぜ高いのか。

 岸田支持の理由のうち「他よりましだから」が常に上位にある。安倍・菅の内閣の時も同じ理由がトップだった。だが、「他」で思い浮かべるものが違う。安倍の時は明らかに前民主党政権。岸田の場合は安倍・菅政権だろう。岸田は、安倍・菅極悪内閣の負の遺産を逆利用しているといえる。岸田を支持する自民党村上誠一郎衆院議員は「前任者がひどすぎた」(6/10週刊金曜日)と安倍・菅を引き合いに出すのに悪びれない。

 果たして岸田は安倍・菅よりましなのか。就任時、安倍・菅を批判する岸田発言(新自由主義の修正、果実の分配などなど )はまったく消え失せた。政権半年、岸田自民党の参院選挙公約は明らかに安倍・菅路線を強化するものになった。

 自民党の公約は2部構成の7項目(6/16公表)。安倍・菅を上回るものの代表が第1部「日本を守る」4項目の最初「外交・安全保障」だ。「来年度から5年以内に防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」と毎年の軍事費拡大を宣言する。目標額は「NATO(北大西洋条約機構)諸国の国防予算の対GDP(国内総生産)比目標(2%以上)」。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の脅威を口実に軍事費を徐々に増額した安倍の段階から、岸田は5年で倍増を掲げる。

 参院選後、次年度概算要求とタイアップして安保関連3文書(国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画)を書き換え、一気に「反撃能力」増強への道筋を示すつもりだ。ベースには日米同盟強化がある。めざすは陸海空そして宇宙まで米軍と共に戦う自衛隊。その中には、米核戦略をあてにする「拡大抑止」も含まれる。「広島出身の首相」に何の意味もない。これが選挙公約の真っ先に上がっている項目だ。


インフレ生活破壊に無為無策

 軍事費が倍増されれば、公共事業費や文教科学費などを上回り、社会保障費(年金・医療・福祉など)に次ぐ額となる。まさに朝鮮の「先軍政治」と同じ。市民生活を後回しにして、軍事力増強が最優先となる。

 自民党公約に市民生活を豊かにする政策はあるのか。第1部の2項目目が「原油高・物価高対策」。当面の物価対策でしかないが、原油高対策に見られるように、元売り企業に補助金を出す以上のアイデアはない。

 しかしこれは対策にもなっていない。既に実施されている「燃料油価格激変緩和対策事業」。元売り企業に1gあたり上限35円(さらに超えた分の2分の1まで)の補助金を出しているが、ガソリン小売価格は目標値1g168円を超えたまま、下がらない。

 この対策事業(予算額2774億円)、補助金を配るのはガソリンスタンド業者の支援団体である一般社団法人「全国石油協会」。この団体は経産省の天下り先であり、自民党の集票マシーンでもある(月刊誌『選択』5月号)。

 岸田の「分配」政策は何の実体もない。富裕層への資産課税も内部留保への課税もない。賃上げについては、自らができる国家公務員給与や政府機関で雇用する非正規労働者の賃金を引き上げることをしない。第2部に掲げた「新しい資本主義」、「デジタル田園都市国家構想」もデジタル分野の市場創出に他ならない。

 「資産所得倍増計画」を宣伝する岸田に借金を抱える市民生活の実態は見えていない。内閣府が昨年末公表した子どもの貧困調査。政府がはじめて実施した全国調査だ。シングルマザー世帯の苦しい実態が浮かび上がった。「食料が買えなかった経験がある」と32・1%が答えた。学習環境が劣悪など負の条件が貧困の連鎖を生んでいる。岸田政権が出した対策は低所得世帯へ子ども一人5万円給付。一度限りの措置だけで、貧困の根本的構造に向き合う姿勢はない。「こども家庭庁」の設置も親の過重労働、低賃金、貧弱な社会保障などの問題を何ら解決するものではない。

若者は内閣不支持が上回る

 こんな無為無策な政権が高い支持率を維持できるわけがない。「批判ばかりの野党は若者に嫌われた」―まことしやかに流布されている「分析」だが、若者は内閣を支持していない。不支持率の方が高いのだ。

 埼玉大学の「社会調査研究センター」の調査によれば、40歳未満の年代では、「支持しない」が「支持する」を上回っている。4月の調査で30代の不支持率は46%(支持率43%)。5月には50%(同42%)になっている。

 政府のウクライナ戦争への対応を評価する割合は、年代別の傾向はわからないが、内閣を支持する者で高く出ている。

 ウクライナの破壊された街並みを見れば、必要なのは「徹底抗戦」の軍事支援ではないことは明らかだ。県民を巻き込んだ「徹底抗戦」が生んだ沖縄戦の悲劇を思い起こそう。原爆投下後の広島・長崎、絨毯(じゅうたん)爆撃を受けた東京・大阪や他の都市の廃墟もそうだ。「戦争放棄」を選択した75年前の歴史体験を忘れてはならない。

 自民党選挙公約に「憲法改正」がある。「全国各地で対話集会などを行い、早期に実現する」という。今回、安倍の時の選挙と違って、「憲法改正」に関心は高いようだ。参院選で「最も重視するテーマ」をネット集計しているヤフーによれば、「経済・成長戦略」の19・8%を引き離し「憲法改正」は34・9%とトップだ(6/11現在)。ウクライナ戦争を悪用する改憲勢力には自公に維新が加わり、国民民主も協力的だ。護憲野党は数の上では劣勢である。だが、戦争はあってはならない。改めて「政府の行為によって再び戦争の惨禍」を引き起こさせてはならない決意を確認しよう。





  *  *  *

 国政選挙の投票率は低迷している。前回の参院選は48・8%。年代別に見れば20代は60代の半分程度の投票率でしかない。岸田政権不支持率の高い若者層が棄権すれば、ますます政権を増長させる。

 本当に岸田でいいのか。選挙は政治を変える機会だ。かつて自民党を下野させた経験は民主党政権の失政で負の遺産にされているが、政権交代の成功体験だった。大阪府全域で取り組んだカジノ住民投票を求める運動は、2%強の有権者の署名が地域に大きな変化をもたらすきっかけをつくった。諦めることはない。行使できる1票は、差別され抑圧された者が支配者と対等に意思表示できる権利だ。虐げられた者が票を投じれば政治は変わりはじめる。
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