2022年06月24日 1728号

【「家計が値上げを受け入れつつある」/日銀・黒田のピンボケ発言/アベノミクスを正当化したいだけ】

 生活必需品の値上げが相次ぐ中、日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁が「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言した。激しい批判にさらされ黒田は発言撤回に追い込まれたが、そもそもなぜこのようなことを言ったのか。アベノミクスの失敗をごまかし、継続を正当化するためである。

怒りの反論続出

 日銀の黒田総裁は6月6日に行った講演で、最近の物価上昇に関し「家計の値上げ許容度も高まってきている」との見方を示した。その上で「家計が値上げを受け入れている間に良好な経済環境を維持し、来年度以降の賃金の本格上昇につなげていけるかがポイント」と述べ、金融緩和を継続する考えを示した。

 この発言が報道されると、「誰が受け入れてんだよ」「生活必需品だから買うしかないだけ。みんな困ってる」といった怒りの反論が沸騰した。賃金はほとんど上がらないのに物価は急上昇しているのだから、あたりまえの話である。

 4月の消費者物価指数は約7年ぶりに2%を超えた。食料価格の上昇が特に際立っており、生鮮野菜と生鮮果物は前年4月に比べ12・2%アップ。生鮮魚介は12・1%上昇した。一方、4月の「実質賃金」は前月比1・2%減と4か月ぶりに下落した。

 年金生活者は特に苦しい。過去の賃金下落に支給額を連動させる仕組みが2年連続で適用され、物価高にもかかわらず0・4%減のマイナス改定になったからだ(この仕組みは第2次安倍政権下で導入された)。

 それなのに「値上げ許容度は高まっている」と黒田は言う。その仮説として示したのが、日銀のいう「強制貯蓄」である。“新型コロナウイルスの感染拡大によって消費が抑制され家計には蓄えがあり、値上げを許容できているのでは”というわけだ。

 机上の空論というほかない。コロナのせいで収入を断たれ、貯金を切り崩す生活を強いられている人びとのことは眼中にないのか。そもそも「強制貯蓄」なるものは、日銀の試算でも総額の9割以上が中・高所得者層に集中している。低所得者は「リベンジ消費」どころではないのだ。

耐えがたい円安地獄

 批判の高まりを受け、黒田は発言を撤回し、陳謝した。だが、どうして無理筋の発言をしたのかという疑問が残る。妄想に取りつかれているとは思えない。安倍政権の手先となって進めてきた「異次元の金融緩和」を何としても正当化したかったのだろう。

 第2次安倍政権はデフレ脱却を最重要課題に掲げ、アベノミクスと称した経済政策を推進してきた。その中核をなすのが「異次元の金融緩和」である。ざっくり言うと、日銀が国債を市場から買い取って市中に出回るカネを増やす政策だ。

 だが「経済活動が活発化し、物価とともに賃金も上がる」というシナリオは実現しなかった。金融緩和がもたらした円安と株高は大企業を大いに潤したが、実質賃金はむしろ低下し、GDP(国内総生産)の半分以上を占める消費は低迷し続けている。

 そしてウクライナ危機が円安のデメリットを顕在化させた。原材料や燃料の価格高騰に急激な円安が拍車をかけたのだ。このまま金融緩和を継続すれば、欧米との金利差が拡大し円安がさらに加速するのは明らかだ。家庭や中小企業が我慢の限界を超える日は近い。

岸田では変わらない

 ところが、アベノミクスの提唱者である安倍晋三元首相はこの現実を直視しようとしない。「円安はメリットの方が大きい」と強弁し、「円安の進行するのを抑えるために金利を上げるべきだという考え方は明らかに間違っている」と言い張っている。

 自民党の財政健全化推進本部がまとめた提言案にも激怒し、推進本部事務局長に「君はアベノミクスを否定するのか」と噛みついたという(6/3朝日)。どうやら「近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として過去30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル」という文言が癇(かん)に障(さわ)ったらしい。

 こうした安倍の苛立ちを忠実なしもべである黒田は当然感じていた。だから金融緩和の継続を宣言し、それを正当化するために「値上げを家計は受け入れている」という「根拠」をでっちあげようとしたのだ。

 岸田文雄首相も安倍一派の恫喝に屈したのか、「分配重視路線への転換」という公約を投げ捨て、「大胆な金融政策」などアベノミクスの枠組みを堅持すると宣言した。「何もしないことが岸田の強み」と言われるが、間違った政策を続けることほど重い罪はない。

 物価高を放置する政権が続けば生活は苦しくなる一方だ。きたる参院選は審判を下すときである。(M)

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