2022年07月01日 1729号

【参院選 自民党の大軍拡公約/軍事費10兆円でいいのか/生活破壊と貧困化に拍車】

 参院選の公約に「国防力の抜本強化」を掲げた自民党。高市早苗政調会長は「自民党としてあえて争点を一つ挙げれば外交・安全保障になる」と強調した。つまり自民党が今回の選挙に勝てば、「軍事費10兆円」という未来が待ち構えているということだ。

自民、維新が競い合い

 「毅然とした外交・安全保障で、“日本”を守る」。自民党の公約パンフをめくると、この大見出しがまず目に留まる。高市政調会長は「外交・安保をトップに持ってくることが国民の関心の方向性にかない、自民党らしさを打ち出せる」と説明する。ウクライナ戦争を「追い風」と見ていることは明らかだ。

 具体的には、NATO(北大西洋条約機構)の加盟国が軍事費の目標GDP(国内総生産)の2%以上としていることを念頭に、「真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に必要な予算水準の達成を目指す」と明記した。

 また、「わが国への武力攻撃に対する反撃能力」(本当は相手国中枢に対する先制攻撃能力)を保有すると宣言し、「最先端技術を駆使した“戦い方”の変化に応じた能力強化と態勢構築」を進めるとした。「対中国」「対北朝鮮」の戦争近しと言わんばかりの書きっぷりである。

 この大軍拡公約の上を行こうとする危ない集団がいる。日本維新の会だ。維新の公約は「積極防衛能力」の整備をうたい、軍事費のGDP比2%への増額を明記。さらには、核抑止力の保有に関する議論を行うと踏み込んだ。

5兆円あれば…

 「2%」というと大したことではない印象を受けるが、実際には莫大な金額になる。高市は軍事費について「必要なものを積み上げれば、10兆円規模になる」と述べている(6/12フジテレビの番組)。今年度の当初予算が約5兆4千億円だから、最低5兆円は増やしたいということだ。

 5兆円―。5兆円の予算を教育・医療・福祉関連に振り向ければどのようなことができるのか。6月3日付の東京新聞が掲載した記事を参考にみていこう。

 教育施策に使う場合、大学授業料の無償化は年1兆8千億円で実現する。児童手当の拡充も可能だ。支給対象を現在の中学3年までから、高校3年までに延長した上で、親の所得制限を撤廃して1人1万5千円を一律に支払う場合、年1兆円で賄える。小・中学校の給食無償化は年間4386億円あればいい。

 物価高で苦しい年金生活者に月1万円の上乗せ支給もできる(費用は4兆8612億円)。医療に使う場合はどうか。公的保険医療の自己負担額は5兆1837億円(19年度)なので、これをほぼゼロにできる。

 消費税の減税も可能だ。5兆円は税率を10%から8%へと引き下げる2%分の財源に相当する。逆に言うと、軍事費を5兆円も増やせば増税は必至だし、生活関連予算にしわ寄せが及ぶことも避けられない。

 安倍晋三元首相などは「財源は国債で対応すればいい」と無責任なことを言っている。戦費調達のために行われた巨額の国債発行が生活や経済を破壊した歴史を無視している。大体それは将来世代に借金を回すことではないか。

選挙で「ノー」を

 さて、こうした軍拡公約のベースになったのが、自民党が4月に公表した安保提言である。ここでは、メディアがあまり触れていない内容に注目してみよう。

 提言は、政府が年末に予定している「防衛3文書」(国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)の改定に向け、次のように述べている。「米国の戦略文書体系との整合性」や「米国の『国家軍事戦略』」を踏まえた「新たな3文書」を政府は策定すべきである、と。

 つまり、中国を「最重要の戦略的競争相手」と位置づけ「同盟国と連携して対抗する」とした米国の戦略と一体化した「新たな国家安全保障戦略」を日本政府として掲げるべきだというのである。これはもう日米共同の対中戦争計画であり、「専守防衛」の原則を完全に放棄するものだ。

  *   *   *

 時事通信の最新世論調査(6/10〜6/13実施)によると、「防衛費」の増額を5割近くが容認し、「反撃能力」が必要との意見も6割に達した。他の世論調査でも似たような結果が出ている。ロシアのウクライナ侵攻が世論に及ぼした影響はかくも大きいといえよう。

 しかし、政府・自民党が狙う大軍拡は、日本が米中ミサイル戦争の主戦場になることを想定したものだ。そのための軍事費増額は増税や教育・医療・福祉予算の縮減をもたらし、市民生活の破壊と貧困化に拍車をかけるだろう。参院選できっぱり「ノー」を付きつけねばならない。  (M)

 
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