2022年11月04日 1746号

【読書室/私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く/岸本聡子著 晶文社 1600円(税込1760円)/下からの民主主義へ】

 「下からの民主主義」を社会運動や家庭で追求してきた著者岸本聡子は、6月東京・杉並区長選挙で現職区長を187票という僅差で破って当選した。

 著者は、オランダで「外国人として、移民として、女性として生きる」なかで環境問題や水の正義などの運動に関わってきた。自ら「この本は、ロストジェネレーションに生まれた日本人女性である私が、日本人とオランダ人の国際結婚に葛藤しながら、ヨーロッパの移民として、学歴もお金もないところから働いて、子育てをして、『自分のことは自分で決める』を貫いて生きてみた記録」と書く。

 オランダ語習得での苦労や作った食事で友人が腹痛を起こしながらも料理好きになったことなど、身近な生活上の話題も織り交ぜつつ、「よそ者の視点」を社会運動に活かしていく。

 その姿勢は一貫している。お金儲けから程遠い「コモンズ(公共財)と民主主義」や「気候正義と多様性」の追求だ。

 「私にとって政治も運動も生活の一部」と捉える著者は、「市民、公益、コモンズ」を優先し、政治課題の中心に置くと言う。政治への直接参加を重視するため、「市議や市長は各地区の住民の会合に定期的に出向き、住民たちの生の声を議会に持ち帰る」のだ。

 岸本は、バルセロナ初の女性市長アダ・コラールが寄せたメッセージで締めくくる。「私たちは民主主義を取り戻そうとしているのです。利権を恐れず、政策圧力や国からの制裁を恐れない。地域経済と市民を守ることを恐れない自治体と市民のネットワーク恐れぬ自治体≠ナす」。それは、区長となった著者がめざす方向性でもある。 (I)
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