2022年11月11日 1747号

【圧倒的攻撃力°≠゚る軍事3文書改定論議/憲法「平和主義」の書き換えはかる】

軍拡へ大合唱

 軍事力の「抜本的強化」に向けた動きが急ピッチに進んでいる。国家安全保障戦略など軍事3文書の改定作業について与党協議が10月18日にスタートした。自民党麻生太郎副総裁、公明党北側一雄副代表をトップに、元防衛大臣で自民党小野寺五典安保調査会長を座長とするワーキングチームが週1〜2回のペースで詰めを急ぐ。26日には第2回目を終え、まず「経済安全保障」を国家安全保障戦略に位置づけることに合意した。「経済安保」は軍需産業育成策であり、中国からの供給を断つ狙いがある。

 政府においても9月30日、首相の下に設置された「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が1回目の会合を開いた。1月以来、改定議論を17回も行いながら、その内容を隠してきた「有識者会議」。ここにきて姿を現した格好だ。既に2回目が10月20日に開催されている。

 改定の全容はいまだ見えないが、政府与党が示し合わせて、来年度予算編成に向け、軍事費を倍増させる口実を書き込もうという魂胆であるのは間違いない。安倍政権が強行成立させた戦争法制の下地の上に、岸田政権は他国領土を攻撃できる能力を公然と手にすることをめざしているのだ。

新たな兵器

 「生活支援策」など財政支出拡大を迫られる一方で、軍事予算の増額を優先する政府の仕掛けは何か。

 中国の「脅威」をいかにリアルに描き出すかだ。第2回の有識者会議に提出された防衛省の資料「防衛力の抜本的強化」はウクライナ戦争を最大限利用している。ロシアによるウクライナ侵略の段階を「分析」し、その教訓は、「侵略を思い止まらせる防衛力を持っていなかったことだ」と結論づけている。北大西洋条約機構(NATO)の核の傘に入っていなかったことまで原因にしている。

 日本に置き換えれば、中国軍を圧倒する戦闘能力がないと侵略される≠ニいうことになる。日米同盟強化で米軍の核戦略に依存するというのだ。

 その下で「あらたな防衛力」として「7つの柱」をあげた。スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、無人アセット防衛能力等だ。長距離ミサイル、無人ドローン攻撃機を新たな攻撃力に位置づけている。

財源探し

 これに対し財務省は、財政制度等審議会(9/26、10/19)の意見を取りまとめ、資料として出した。「海上保安庁やサイバー対策なども防衛予算」だ。国交省は空港・港湾等のインフラを軍民共同利用できるとの資料を示した。

 岸田文雄首相が言う「縦割りの打破」を受けたものだが、萩生田光一政調会長は衆院予算委員会(10/17)で「水増しではだめだ」と岸田に釘を刺している。

 だがこれは軍事予算「水増し」問題ととらえるべきではない。むしろ民間施設や科学技術研究も含めて、軍事利用に動員する態勢づくりへと議論を進める布石なのだ。

 財務省は、「(軍事費は)恒常的に支出される経費」だから「安定財源の確保が必要」としている。新たに戦費増税をするのか、軍事国債を発行するのか。たとえば所得税(総額20兆円規模)に付加税率をのせる案がある。5%で1兆円が生まれることになる。東北震災復興資金の捻出方法だ。

 軍事費は今年度当初予算で既に5兆1788億円。補正予算が上積みされる。この他に5兆3342億円の後年度負担額を抱えている。ローンで買った兵器の返済額だ。「後年度負担の見える化が必要」と財務省は言及しいてるが、政府をあげた軍備増強の掛け声の下で、不都合な事実は明らかにされることはない。殺人や破壊のために税を投入するなど、1円たりともあってはならないのだ。

   *  *  *

 この軍事3文書の改定作業で最大の問題であるのは、戦争が起こることを前提に「戦力」のみを論じていることだ。国家安全保障戦略は、「国の外交・防衛政策の基本方針」と位置付けられている。だが外交政策は無きに等しい。外交の基本であるべき「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼する」憲法の平和主義はどこにいってしまったのか。

 ウクライナ戦争の惨劇は外交努力を放棄した結果、生まれてしまった。そこにこそ最大の教訓がある。なぜウクライナ東部紛争のミンスク停戦・和平合意が履行されなかったのか検証すべきだ。

 軍事費の積み上げは決して平和をもたらさない。

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