2022年11月11日 1747号

【Q&A マイナ保険証 なぜ強制か 目的は市民監視と資本のもうけ 違法な義務化は阻止できる】

 「健康保険証がなくなるの?」「マイナンバーカードが強制に?」―10月13日、河野太郎デジタル相が突如2024年秋に現行保険証を廃止し「マイナ保険証」に切り替えると発表して以来、市民の間に疑問や不安が噴出しています。読者の疑問に答えます。

Q 保険証廃止、マイナ保険証へ≠チてどういうこと?

 現在の紙またはプラスチック製の健康保険証を廃止して、マイナンバーカード(カード)を保険証として利用することです。

 カードに保険証情報を直接入れるのではなく、情報をひも付けることで一体化させます。カード裏面のICチップに搭載された電子証明書をカードリーダーに読ませ、顔認証か暗証番号入力により本人確認をするとともに、患者の資格情報等を取得します。患者はカードを取得し保険証利用登録をすることが必要です。

 医療機関には、顔認証付きカードリーダー設置や国保中央会・社会保険診療報酬支払基金と専用回線をつなぐオンライン資格確認システム導入が来年4月から義務づけられます。医療機関は、保険証の目視による資格確認で支障も大きな不都合も起きていないのに、費用をはじめ負担が大きくなります。

 「国民皆保険」のもとで保険証を廃止してカードに一本化するのは事実上の取得強制です。取得強制は、カード取得を任意としている番号法違反です。またカードを持たない人の医療の対応は未定で保障されない恐れがあり、市民の生存権を否定するものです。




Q メリットはあるのですか? 個人情報がもれないか心配です

 メリットはありません。

 政府は、保険証の持ち歩きや切り替え・更新の必要がないこと、医療費の確定申告の簡略化などをあげています。しかし、どれも現在大きな負担とは言えませんし、カードの電子証明書の有効期限は5年で、結局、マイナ保険証も役所での更新手続きが必要になります。

 持ち歩くことによる紛失、盗難でマイナンバー漏えいのリスクが格段に高まることのほうが問題です。カードだけで名前、住所、生年月日、顔写真、マイナンバーがわかります。すでに漏えいしている個人情報とあわせて個人特定され、振り込め詐欺や悪徳商法などに使われる危険性があります。

 カードと暗証番号があれば、マイナポータル(その人の所得・住民情報などすべてのマイナンバー付きの個人情報が閲覧できるサイト)で情報取得でき、なりすまし悪用の危険性も。

 また、対応システム導入医療機関での窓口負担が、マイナ保険証で初診6円、従来の保険証では12円も高くなるのも問題です。

Q なぜ突然マイナンバーカード強制に変更するのですか?

 2016年1月からカード交付が開始されましたが、4年以上たっても取得率は19・4%で広がりませんでした。そこで、政府は20年9月から今日までマイナポイントをエサ≠ノしてカード取得を推進。2兆円以上の税金を注ぎ込んで延長を繰返し2年以上かけた取得推進策でも、カード取得率はやっと5割に到達したに過ぎず、政府計画の「2023年3月までに全国民所持」という目標には遠く及んでいません。

 この現状に対し、政府関係者は「どこかで退路を断たないとなかなか進まない」と述べ、「廃止期限を明確にすることでカードの普及を加速させたい」(10/13 TBS)とアメをムチに変えて踏み込んできたのです。

Q 義務化で何が起きるのですか?

 政府による市民監視の危険性が高まり、個人情報が資本のもうけのために提供されることにつながります。

 昨年のデジタル関連法により、カードの発行と管理が地方公共団体情報システム機構(J―LIS)に変更され、そのJ―LISは実質政府の管理下に置かれ、政府が個人情報にアクセスしやすくなりました。

 すでに進行中の銀行口座と国家資格のひも付け管理に加え、運転免許証や外国人の在留カードとの一体化が進められ、さらに、政府は国・自治体・民間で個人情報を簡単に共有できる情報連携基盤を作り、自治体給付金などをポイントで行なう「官民共用キャッシュレス基盤」構築もめざしています。

 実現すれば、キャッシュレス決済の情報などを官民が利用して個人をランク付けし、市民の行動の監視、規制に活用する道が開かれます。顔認証や監視カメラと一体であらゆる市民が監視、抑圧されている中国の「社会信用システム」となる危険性があります。その道具にマイナンバーカードがなろうとしているのです。

 また、政府はマイナ保険証を契機に医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させ、個人の医療健康情報を生涯管理し、医療・介護費の削減や医療・製薬企業の利潤拡大手段に使おうとしています。そのために今国会には医療個人情報の提供を可能とする法案が提出されています。

Q マイナ保険証義務化は拒否できますか?

 できます。健康保険法及び同施行規則は、資格を取得すれば保険者証を「被保険者に交付しなければならない」と定めています。資格証明書で対応との報道もありますが、資格証明書は健康保険証の交付手続き中であることを証明するだけで健康保険証ではありません。カードを持たないからといって、保険証を交付しない∞資格証明書で対応≠ヘ違法であり、交付されないことは現行法上あり得ません。

 そもそもカード取得強制は番号法違反であり、憲法第25条違反です。加藤信勝厚生労働相は「保険料を納めている人が保険診療を受ける権利を持つのは当然であり、前提だ」と言わざるを得ません。河野デジタル相も「理解いただく」としか言えず、法的に義務化はできないのです。

 義務化しようにも、オンライン資格確認を導入していない訪問診療、あんま鍼灸等の対応や、認知症、様々な理由でカード取得できない人への対応、停電時の対応など課題は山積みです。

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 マイナ保険証の取得率は全人口の2割に過ぎず、全国保険医団体連合会の調査(8月)では、開業医の8割が保険証廃止と高額の費用負担をともなうオンライン資格確認の義務化に反対です。マイナ保険証を利用できる医療機関も現時点で3割のみ。日本医師会松本会長も保険証の廃止に懸念を表明しています。

 マイナ保険証反対のネット署名は短期間で11万人を超えました。市民が声をあげれば変えられます。カードを持たず、義務化を撤回させることは可能です。

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