2022年11月18日 1748号

【日米韓 低支持率政権の危険な動き/相次ぐ「朝鮮有事」「台湾有事」の軍事訓練/東アジア戦争自動開戦の恐れ】

 朝鮮半島沖合で朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と韓国がミサイルを撃ち合う事態が生じた。きっかけは米韓合同軍事演習。日米韓は、「朝鮮有事」「台湾有事」を想定した軍事訓練を続けている。日米韓の政権はいずれも低支持率にあえいでいる。いくら軍事緊張をつくり出しても、支持率は回復しない。危機をあおるより平和外交に徹せよ。それが市民の求めるものだ。

朝鮮半島でミサイル撃ち合う

 朝鮮は11月2、3日と弾道ミサイル6発を発射。他にも20発を超えるミサイル発射や約80発の砲撃を日本海などに向けて行ったと報道された。そのうちの弾道ミサイル1発は、南北の軍事境界線とされる北方限界線(NLL)を越えて着弾したという。

 これに対抗して韓国軍も戦闘機から3発のミサイルをNLLを越えて発射した。南北双方が相手領域にミサイルを撃ちあうという異常な事態が引き起こされた。



 朝鮮は米韓軍事演習に対する警告だとしている。10月31日に開始された「ビジラントストーム」。「朝鮮有事」を想定した軍事訓練で、ステルス戦闘機など米空軍100機、韓国空軍140機に加え、オーストラリア軍の空中給油機も参加した。初めて韓国空軍基地に入る米海兵隊戦闘機F35Bは山口県の米軍岩国基地から出撃している。

 5日間で1600回の出撃訓練。過去最大規模の軍事訓練のシナリオは、朝鮮の戦闘機を3日以内に壊滅させ、700か所以上の主要な標的を破壊するというもの。攻撃先には核兵器やミサイル基地の他、指揮所や官邸も含んでいるという(11/4朝鮮日報)。軍の最高司令官であり、国務委員会委員長である金正恩(キムジョンウン)の爆殺も訓練の目的ということだ。米韓は今年8月から9月にかけて軍事訓練「斬首作戦」を行っている。なんともあからさまなネーミングだ。

 軍事境界線の直近で、「敵対国の指導者」を殺害する戦闘訓練を行うことがいかに軍事的な緊張を高めるかは誰にでもわかることだ。一切の軍事訓練をやめるべきだ。

自動参戦への日米共同計画

 日米軍事訓練のシナリオも極めて生々しい設定の上で行われている。

 日米両政府は、中国の内戦=「台湾有事」をどのように「日本有事」にしようとしているのか。沖縄琉球弧(南西諸島)を戦場とする「日米共同作戦」を暴露した共同通信石井曉(ぎょう)記者は「この作戦は安倍政権が成立させた安保関連法(戦争法制)によって可能になった」と指摘している(9/25沖縄・宜野湾市での講演)。

 戦争法制は「周辺事態安全確保法」を「重要影響事態安全確保法」に改め、地理的制約を外し米軍など同盟軍の後方支援を可能とした。これで、南西諸島に分散する米海兵隊に弾薬補給をする「共同作戦」が開始される。米軍が戦闘に入れば「存立危機事態」(事態対処法に追加新設)となり、「米軍支援の戦闘」ができるとする。平和憲法の下で否定されてきた集団的自衛権の行使だ。戦争法制は「台湾有事の時、日本の自動参戦のための仕掛け」と石井記者は強調する。

 日米両軍は11月10日から19日にかけ、合同演習「キーン・ソード23」を行う。演習目的には「グレーゾーン事態から武力攻撃事態における自衛隊の運用要領及び日米共同対処要領を演練し、自衛隊の即応性及び日米の相互運用性の向上を図る」とある。グレーゾーン事態とは「平時」と「有事」の間。つまり戦争法制に基く自動参戦プロセスの実践検証ということだ。

 この演習には日米合わせ航空機370機、艦船30隻、3万6千人の兵員が動員される。オーストラリア軍や英軍、カナダ軍も加わる。演習場所には「津多羅島」が含まれている。長崎県五島市の無人島で、海岸線の形状や急峻な地形が尖閣諸島・魚釣島に似ている。昨年はここで自衛隊と海上保安庁・警察が共同訓練を行った。今年は日米両軍が「中国の台湾侵攻、尖閣占拠の事態」を想定し、「島嶼(とうしょ)奪還」作戦の舞台にしたのだ。


標的となる横田・横須賀基地

 では、中国の攻撃をどう想定しているのか。どんな被害を計算しているのか。軍事演習は常に勝利するシナリオであり、被害がどこまで及ぶのか問題にされない。ただしかし、戦闘域は琉球弧だけには決して留まらない。

 米放送局NBCが5月に「台湾有事」のシミュレーション番組を放送した。その内容を「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」発起人の三上智恵さんが雑誌「アジェンダ」紙上で紹介している。「中国はまず台湾の東側と同時に日本の米軍基地を攻撃する。その攻撃の先は横田基地や横須賀、首都圏あたり」(同会メルマガ第57号に転載)

 英通信社ロイターも昨年11月、安全保障政策の関係者や軍事専門家への取材から「台湾危機、6つのシナリオ」を作成した。その第6番目のシナリオ、中国人民解放軍が台湾全土に攻撃を仕掛けるケースでは、台湾への攻撃と同時に在日米軍基地と米領グアムの米軍基地をミサイル攻撃し、米軍介入の時間稼ぎを図る作戦をとる。NBC同様、日本全土がミサイルの着弾点となっていた。そのシナリオは「数時間のうちに東アジアで大規模な戦争が勃発した」との結果を示し、終わっている。

 実際、中国は約2000発の短中距離弾道ミサイルを持つ。敵の防御能力を上回る多数のミサイルを同時に発射する「飽和攻撃」をとるという。沖縄琉球弧のみならず、日本列島全域がミサイル攻撃の対象となり、東アジア一帯が戦場となることは容易に想像できる。「台湾有事」の日米共同作戦を発動することは、自動的に東アジア戦争が始まってしまうことを意味している。

 こんな事態を本気で準備し、訓練をしようとする政治指導者の気が知れない。あらゆる軍事訓練、軍事挑発をやめさせなければならない。

  *  *  *

 軍事強硬路線をとる日米韓の政治指導者はいま支持率の低下にあえいでいる。「台湾軍事支援」を放言する米ジョー・バイデン大統領の支持率は39%(10/25ロイター)。就任以来最低となった5・6月の36%に再び近づいた。中間選挙でも民主党は劣勢だ。

 朝鮮敵視の姿勢をとる韓国尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の支持率は30%(10/28聯合ニュース)。6週ぶりに30%台に戻ったものの、低迷したままだ。岸田内閣支持率も、毎日新聞や時事通信の調査で3割を切り、日経新聞・テレビ東京の直近の調査でも政権発足以来最低の42%(10/30日経)となった。

 「自国を守る」強いリーダー像が支持率回復に役立つと彼らに勘違いさせてはならない。ひとたび戦争が起これば、否が応でも犠牲者が出る。遠くからミサイルを撃ち合う戦闘では、瞬時にして市民生活の場が戦場となってしまうのだ。軍民分離の原則など有名無実化してしまう。

 少しでも戦争に近づく動きには断固として反対の声をあげ、ただちに対話、平和的交渉を求めなければならない。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS