2022年11月18日 1748号

【未来への責任(361)「朝鮮のミサイル脅威」扇動 被害者は朝鮮学校生徒】

 10月の朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)によるミサイル発射に対して、5年ぶりにJアラート(全国瞬時警報システム)が出された。ミサイルは日本の領空の上方1000`の人工衛星軌道を通過し(EEZ)排他的経済水域のはるか遠方約3000`東に落下したと言われる。

 およそ被害発生など考えられないにもかかわらず、朝鮮に対する「危機意識」をあおるためにだけ出されたこのJアラートによって、実際に被害を受けたのは朝鮮学校生徒らをはじめ在日コリアンであった。「お前、朝鮮学校の生徒だろう。日本にミサイルを飛ばすような国が高校無償化とか言っているんじゃねえよ」と威嚇され足を踏まれる暴行を受けて警察に被害届を出すなど、全国朝鮮学校校長会の集計では全国6つの朝鮮学校で11件の暴行・暴言・脅迫事件が報告された。

 昨年7月の名古屋韓国学校や8月の京都ウトロ地区などへの連続放火事件を起こした22才の青年に対して、今年8月、懲役4年の実刑判決が出された。また、今年4月に大阪・茨木市のコリア国際学園に放火した30才男性の事件の裁判は今も継続している。いずれもSNSにあふれる「嫌韓情報」が動機のヘイトクライムだった。

 9月に東京・JR赤羽駅で「朝鮮人コロス会」という差別落書きを発見した朝鮮学校生徒は「いろんな差別を受けてきたが、殺すという言葉を見たのは初めてだった。誰かが自分の命を狙っているかもしれないと、異常なほど周りを警戒し、行き交う人すべてが敵に見えた」と当時の恐怖を明かした。

 そして学校関係者は「私たちがいま心配しているのは、児童生徒の身辺、命です」と語った。まさに朝鮮学校生徒が自身の命の危機を覚えるほどに朝鮮敵視の風潮が日本社会にはびこっている現状が明らかになった。

 このような事態を受けて10月6日、外国人人権法連絡会(「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」と「人種差別撤廃法」の制定を求める連絡会)が「国及び地方公共団体に対し、直ちに朝鮮学校をはじめとする在日コリアンへのヘイトスピーチ、ヘイトクライムを許さないとの声明を出し、各地の朝鮮学校周辺の警備を強化するなど、危機が迫るヘイトクライムを止める具体的行動をとること」を求める声明をだした。短期間にもかかわらず226団体の賛同を得て、10月18日、法務省人権擁護局に緊急要請を行った。

 民族的マイノリティとしての在日コリアンに対する差別の根源に、日本の朝鮮植民地支配の時代から連綿と続く日本人の自民族中心主義(エスノセントリズム)と植民地主義がある。これを克服するためには、ヘイトクライムをヘイトクライムとして処罰できる「人種差別撤廃法」の制定が急務である。

(強制動員真相究明ネットワーク 中田光信)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS