2022年11月18日 1748号

【原発避難者住まいの権利裁判 第2回弁論/「国内避難民として適切な保護を」と原告】

 国の再稼働方針と一体で進むのが福島県の住民帰還強要政策。それを阻む311子ども甲状腺がん訴訟と避難者住宅追い出し訴訟。生存権に直結した闘いだ。

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 10月31日、福島県の原発避難者住宅追い出しに抗う住まいの権利裁判第2回口頭弁論が東京地裁で開かれ、約70人の傍聴者が見守った。

 郡山から母子避難し埼玉県の国家公務員宿舎で4人の子どもと暮らす原告Iさんが陳述。「生活費を得るため夫は郡山で職を続け、私と子どもは埼玉を避難先に選んだ。私は2つの指定難病の認定を受け通院検査投薬が必須で副作用がつらく、うつ病にもなった。夫もがんの手術をしたが、子どもを抱えて職をやめるわけにもいかない」

違法不当重ねる福島県

 2017年4月以降、有償契約した経緯について「契約書に不備があったので異議を申し立てたら、県は一方的にサインと家賃相当分の支払いを求め調停にかけようとした。裁判所に引っ張りだされれば子どもたちに迷惑がかかる、夫の職場・地元・親戚からもとやかく言われるかもしれない、弁護士はどうすれば、と悩んだ末、サインすることにした」。今度はその契約書を盾に19年4月以降家賃2倍相当分が請求された。「形式と言われたはずの契約書を根拠に請求がなされ、してやられた気持ちだ」

 20年末、県から郡山に住む母の元へ「娘が不都合を起こしたから」といった封書が届けられる。「認知症気味の母だが、『変な手紙がきた』と連絡してきて事なきを得た。夫が手紙の回収のため母宅を訪問すると、同居する弟から『コロナの時期に高齢の母を訪問するなんて非常識だ』と罵られ、夫と弟は疎遠に。家族の不和を作って何か良いことがあるのか。母の連絡先は、県が住民票や戸籍を照会して知った事実がわかった。親に圧力をかける手段としての照会は合法なのか」とIさんは怒る。

 最後に「もし復興公営住宅が避難先の学区内にも作られていたら、裁判は必要なかった。避難し、子どもの健康は守られているが、大きな精神的経済的苦痛を受けた。安全安心に暮らせる権利を守りたい。来日した国連人権理事会の方が国際人権法の話をされた。国内避難民として適切な保護を望みます」と訴えると、傍聴席から拍手が起こった。

 弁護団からは林治弁護士が、被告(福島県)が原告らの親族にまで原告の立ち退きを求めたことの違法性を列挙して批判した。

 裁判後の報告集会で4人の原告が感想を述べた。Iさんは「私と同じ目に遭っている東京の皆さんに会えて心強く思った。まだ宿舎を出られる状況ではないので裁判を頑張っていく」。

国際法で人権を問う

 裁判長は、当事者の陳述を今回で終了させる方針だ。第1回で陳述したCさんは「10名の原告はそれぞれの事情と思いがあるので、訴えさせてもらいたい。自分のことなので、今後も参加して自分の目と耳で推移をしっかりと確かめたい」と述べる。「県は手ごわいので、皆さんに応援してもらって頑張りたい」(Fさん)「大変な裁判だが、ここで負けちゃいけないと改めて思った」(Hさん)

 井戸謙一弁護団長は弁論の特徴を報告した。避難者の居住権問題を県は手続き論、行政の裁量の枠内の話に矮小(わいしょう)化しようとしていると批判し、「私たちは国際法にかかわる人権問題と位置付けるが、『原告の独自見解』と、まともに反論しない。今日は避難者が国内避難民であること自体を否認すると述べた。裁判所は特に問うこともなく、問題がわかっていないようだ」と国際法軽視を指摘した。

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 9月26日から避難者の調査に入った国連人権理事会の特別報告者セシリア・ヒメネス=ダマリーさんは調査終了後の10月7日、「ある種の公営住宅に今も居住している国内避難民は、現在、立ち退き訴訟に直面している。政府は、特に脆弱(ぜいじゃく)な状態にある国内避難民に対して住宅支援の提供を再開すべきであると勧告する」と報告した。

 山崎誠衆院議員(立憲)は「腰の重い外務省を動かしてセシリアさん訪日調査を実現できた。報告書を使って広げともに闘いたい」と決意を表明した。支援の広がりが求められている。



 関西からZENKO反原発実行委員会も参加し連帯発言。同日午前には、資源エネルギー庁、厚生労働省に要請署を提出した。
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