2022年11月18日 1748号

【朝鮮人虐殺に触れた映像作品/東京都が上映不許可に/小池知事が招いた歴史の隠蔽】

 東京都が設置した人権啓発のための拠点施設で、歴史修正主義にもとづく「検閲」事件が起きた。関東大震災時の朝鮮人虐殺に触れた映像作品に都の人権部が難色を示し、上映を認めなかったのである。背景には、朝鮮人虐殺の史実を隠蔽しようとしてきた小池百合子知事の姿勢がある。

そんたくメールで圧力

 美術作家の飯山由貴さんの企画展が東京都人権プラザ(港区)で開催されている(11月30日まで)。この企画展は同プラザの主催事業で、精神障がいがある人の語りと向き合うこと、寄り添うことの在り方をテーマとしている。

 実は、飯山さんの映像作品《In-Mates》の上映とトークイベントが計画されていたが、現在に至るまで実現していない。東京都総務局人権部がストップをかけたからだ。

 この映像作品は、戦前期の精神病院に入院していた朝鮮人患者らの診療録をもとに、彼らの葛藤と苦しみを在日コリアンのラッパーFUNIさんが表現したもの。時代背景を理解するために、歴史学者の外村大・東京大学教授へのインタビューも盛り込まれている。

 なぜこの作品が上映禁止になったのか。人権プラザを管理運営する東京都人権啓発センターに対し、人権施策推進課の職員が次のようなメールを送っていたことが明らかになった。

 いわく「関東大震災での朝鮮人大虐殺について、インビュー内では『日本人が朝鮮人を殺したのは事実』と言っています。これに対して都ではこの歴史認識について言及していません」。官憲や一般民衆によって多くの朝鮮人が殺された史実を「都は認めていない」と受け取れる文面である。

 加えて、朝鮮人犠牲者を悼む毎年9月1日の式典に小池百合子知事が追悼文を送っていないことを挙げ、こう述べている。「都知事がこうした立場をとっているにも関わらず、朝鮮人虐殺を『事実』と発言する動画を使用することに懸念があります」。都知事の歴史認識と異なる表現は認められない、というわけだ。

否定論を「説」扱い

 都人権部は上映禁止の理由を「精神障がい者の人権という(企画展の)趣旨に沿わなかった」と強調。小池知事への忖度を否定した(10/28東京新聞)。一方で、メールの内容は事実と認め、「職員は朝鮮人虐殺が歴史家の見解が分かれる史実だと意識し、内容を確認する意味でメールを送った」と釈明した。

 とんでもない話である。関東大震災時の朝鮮人虐殺は明白な事実であり、「虐殺はなかった」などという学説は存在しない。役人なので官庁のお墨付きが欲しいというなら、いくらでも例示してあげよう。たとえば、内閣府中央防災会議の専門調査会が作成した報告書(2008年)には次のような記述がある。

 「関東大震災には、官憲、被災者や周辺住民による殺傷行為が多数発生した。武器を持った多数者が非武装の少数者に暴行を加えたあげくに殺害するという虐殺という表現が妥当する例が多かった。殺傷の対象となったのは、朝鮮人が最も多かった」

 都が刊行した『東京百年史』第4巻でも、朝鮮人や中国人の虐殺に触れている。それを人権行政を担当する部局の職員が無視したのだ。小池流歴史修正主義の影響が組織の末端まで及んでいると言わざるを得ない。

隠蔽がヘイトの温床

 朝鮮人犠牲者追悼式典は1973年に始まり、歴代の都知事が追悼文を寄せてきた。これを小池知事が取りやめた。2017年以来、6年連続で送っていない。「すべての震災犠牲者に哀悼の意を表している。個別の対応はしない」というのが表向きの理由だ。

 だが、取りやめの背景には「虐殺はなかった」と主張する極右団体や自民党都議の要請があった。小池知事自身も「何が明白な事実かについては、歴史家がひもとくもの」などと述べ、虐殺否定論を容認するかのような発言を行っている。

 作者の飯山さんは小池知事の責任を厳しく指摘する。「長年にわたって追悼文を送らないという小池都知事の態度が歴史の否定、差別の扇動です。こうした上からのレイシズムが都の職員に差別を内面化させ、レイシズムと歴史の否定にもとづく忖度を可能としたのではないでしょうか」(10/28記者会見)。

 FUNIさんは「なかったことにしてしまう行為にヘイトの温床があるのではないかと考えます」と語った(同)。歴史の隠蔽が差別を助長しているというのである。実際、ネットにはびこるデマに影響されたヘイトクライムが各地で起きている(在日コリアンが集住する京都ウトロ地区を狙った放火事件など)。差別は人を殺す。決して過去の話ではない。   (M)

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